母から娘に受け継がれた“走り屋の血” コンマ1秒の世界にドハマり…28歳カー女子の原点
「仕事でイライラしていたり、生活の悩みを抱えていても、リセットしてくれます」
真緒さんがサーキットでハンドルを握るロードスター。team六連星の常連仲間らで共同保有しており、母の美穂さんが耐久レース出場時に乗っている。 普段この車を管理しているのは、サーキット歴23年以上の蒔田研一さん。もともとバイクに乗り、四駆クロスカントリーにのめり込み、友人に誘われて2001年からサーキットのとりこになっている。そんなベテランドライバーの蒔田さんは、真緒さんにとっての“師匠”だ。「彼女は筋がいいです。基本に忠実で、確実にレベルアップしています。最初は坂道発進に苦労していた子が、たいしたものです」。サーキット歴4年ほどでめきめき上達する、“まな弟子”に目を細める。 真緒さんのスポーツランドやまなしでの1周のベストタイムは43秒。蒔田さんとは0.7秒の差があるという。一見、ほんのわずかの差に思えるが、蒔田さんは「2台で追走する時は、0.5秒差ぐらいまでは『一緒に走っている』という感覚を待てますが、それ以上離れると視界に入りません」。ほんの一瞬で景色の違う世界がある。 先輩たちの背中を追いかける真緒さんは「このコンマ何秒の差は本当に大きいです。もっと練習して、皆さんに追いつきたいですし、いつか追い越したいです」と力を込める。 サーキット場に集まる仲間は優しい“先生ばかり”。ベテランドライバーから「うまくなったね」「こうしたらもっと良くなるよ」と適切なアドバイスをもらい、ありがたさが身に染みる。それと同時に、20代から60代まで年齢層が幅広く、職業もさまざま。交流を通して人生勉強にもつながっている。 “若者の車離れ”と言われる中で、ちょっとした悩みも。「サーキットには同世代の人たちも来てくれるのですが、女性ドライバーが少ないなという印象を持っています。周りの友達は、そもそも免許を取らない選択をしていたり、取ってもペーパードライバーだったり。それがほとんどです。ドライブ旅行に行くにしても、ペーパーの子の運転は怖くて結局私が行き帰りの運転をすることになります(笑)。都会に住んでいると車を持つ必要がないということは分かりますが、車を持つことで行動範囲が広がりますし、自由にどこにでも行けるようになります。人脈も広がるので、もったいないなという気もしています」と、率直な思いを明かす。 2年前にマイカーを購入。「母と“ハチロク”でかぶるのはちょっと恥ずかしいかな」と、トヨタ86の兄弟車にあたるSUBARU BRZを新車で手に入れた。「20代の若い時にスポーツカーに乗る」という自分なりの目標を達成した。相棒である愛車に乗っている自分時間は「ただただクルマに夢中になれる特別な時間です。仕事でイライラしていたり、生活の悩みを抱えていても、リセットしてくれます。いい意味でストレス発散にもなっています」。今後は自身のライフステージに合わせて、その時にベストで乗れるクルマを見つけていくつもりだ。 自分自身、「サーキットで育った」と自覚している。それは、2児の子育てに奮闘しながらも趣味全開で、力強く生きてきた母の存在があってこそだ。「仕事もやって育児もこなして、休みの日は走行会の運営をきっちりやり切って。自分だったらそこまでできません。今の自分だったらと考えると絶対に無理です。母を見ていて単純に、かっこいいと思います。自分の好きなことを変わらず突き進んでくれたらと思っています」と真緒さん。尊敬する母を遠目に見つめながら、母へのエールを送った。
吉原知也