〈目撃〉エリンギが動かすロボットを開発、“キノコロボット”はどういう仕組みなのか
どんな使い道がある?
この新しい技術は農業に利用できるかもしれない。真菌は環境に非常に敏感であるため、真菌を使ったバイオハイブリッドロボットは、機械のみからなるロボットに比べて、畑を汚染する化学物質や毒物や病原体を検知する能力が高い可能性がある。 真菌は極端な環境にも対応できると話すのは、コーネル大学の工学者で、論文の著者の一人であるアナンド・ミシュラ氏だ。真菌の細胞は、塩分濃度が非常に高い水の中や厳しい寒さの中でも生き延びられるため、極限環境では、動物や植物を使ったバイオハイブリッドロボットよりも真菌を使ったものの方が優れているかもしれない。 また、真菌は他の多くの生物よりも放射線に強いので、危険な場所で放射線を検出するのに利用できるかもしれない。 米カーネギーメロン大学の工学者であるビッキー・ウェブスター・ウッド氏は、コーネル大学の研究はバイオハイブリッドロボティクスを大きく前進させたと称賛する。バイオハイブリッドロボットの大きな利点の一つは持続可能性にある。 「例えば、サンゴ礁を監視するために多数のロボットを作るとします。ロボットに重金属やプラスチックを含む電子部品を使ってしまったら、すべてを回収しないかぎり、環境に大量の廃棄物を残してしまうことになります」と氏は言う。なお、氏は今回の研究に関与していない。 生物を利用してロボットを作れるようになれば、ロボットを持ち込む環境に元からある素材を使うことができる。例えば、植物の細胞から作ったバイオハイブリッドロボットは森林再生に役立つだろうし、患者自身の細胞から作った医療用ロボットを体内で使うこともできるだろう。 このようなロボットは、任務終了後の片付けが少なくて済み、有害な汚染物質が残されるリスクも低い。 真菌はどこにでもいるので、資源の少ない場所でバイオハイブリッドロボットを作るのにより適しているかもしれないとウェブスター・ウッド氏は考えている。「ごく少量の菌糸を遠隔地に送り、そこで菌糸体を育ててロボットを作れるかもしれません。そうなれば宇宙ロボット工学に応用できます」 真菌が制御する新しいロボットの使いやすさと耐久性は、長期的な利用の観点からも有望視されている。 「ロボットの中で菌糸体を生かし続けるための条件は、マウスの筋肉を生かしておくために必要なシステムなどに比べて、実現しやすいと考えられます」とウェブスター・ウッド氏は語る。「ですから、より長期的なミッションを担える可能性があるのです」
文=Olivia Ferrari/訳=三枝小夜子