実は年々売上が減少している「養命酒」。「アルコール離れ」「酒税法改正」よりも大きい、ずっと抱えてきた“課題”とは?
養命酒を知らない人は少ないだろう。薬局の棚でひと際目立つ、大きな赤い箱に茶色の瓶。祖父母が、あるいは両親が飲み続けている……そんな人も多いのではないだろうか。実は400年以上の歴史を持つこの商品のメーカー、養命酒製造が今、大きな転換点を迎えている。「くらすわ」という名前で新規事業に注力し始めているのだ。 しかも、企業名を積極的には表に出していない。そこには、ベストセラー商品を持つ老舗が直面する、変革への苦悩と挑戦があった。 【画像】江戸時代の書物に残る、養命酒のレシピ
■江戸時代に誕生した健康長寿の秘薬 養命酒は1600年頃、江戸時代に誕生した健康酒だ。 信州伊那の谷・大草(現在の長野県上伊那郡中川村)で創始者が、「世の人々の健康長寿に尽くしたい」との願いから秘伝製法で造り始め、「養命酒」と名付けたと言われる。医薬品だが、身体に穏やかに作用しながら症状を改善していく「滋養強壮剤」のため、長く継続的に愛用できるのが魅力だ。 ウコン、チョウジ、ケイヒなど、自然の生薬成分14種で造られている。
養命酒製造の執行役員で、くらすわ事業の責任者である福盛禎仁さんは養命酒について、「人間が本来持っている治癒力を、正常な状態に戻す働きをする飲み物です。薬やサプリに頼りたくない、ナチュラル嗜好の方に好まれる傾向がありますね」と語る。 実際、顧客のアンケートには、「おかげさまで病気にならない」「冷え症が改善された」「寝付きがよくなった」など、健康への作用を実感する声がズラリと並ぶ。だからこそ、400年以上の長きにわたり愛されてきたのだ。
■ロングセラーがゆえに直面した課題 一方で現在、その顧客は60~70、80代が中心になっている。要因の1つは、アルコール飲料であることだ。昨今はアルコール離れや、お酒を飲んでも低度数が好まれる傾向もあり、アルコール度数14度の養命酒を購入する人が少なくなったのだ。 「ノンアルコールにしたり、度数を落とせばいいのでは」と思われるかもしれないが、度数14度は、生薬成分を最も効果的に抽出するための最適値。そう簡単に変えることはできない。