実は年々売上が減少している「養命酒」。「アルコール離れ」「酒税法改正」よりも大きい、ずっと抱えてきた“課題”とは?
だがその一方で、「身体によさそうだけど、おいしくなさそう」という味に対する先入観が根強くあったのだ。そのイメージから、スーパーの売り場などへの新商品の設置を断られることもあったという。福盛さんは悲しげに振り返る。 「養命酒はあくまで、『年配の方が健康のために飲むもの』であって、万人に飲まれる、おいしいものではないというイメージがあったのです。だから新商品を出しても『自分ごと化』されず、『自分たちの世代に向けた商品ではない』と思われてしまう場面が数多くありました」
新商品を一度購入してファンになると、リピーターになりやすいという特徴はあったものの、いかんせん、その分母は小さかった。 実際のところ、養命酒を飲んでみると、妙にクセになるうま味があり、苦みはない。薬というよりは、みりんや醤油に近い味わいだ。 アルコールが含まれることを考慮しても、こちらの表現のほうが実態を捉えているはずだ。 ところが飲んだこともない人から、「薬くさい」と言われたり、漢方的な味を連想されてしまうという。
養命酒のネームバリューは、強大なブランド資産だ。しかしながら、新商品を展開するうえでは、ネガティブな要因となってしまっていたのだ。 ■くらすわの誕生と可能性の発見 こうした試行錯誤のなかで、2010年、長野県諏訪市に誕生したのが「くらすわ」だった。 2階にレストラン、1階にベーカリー&カフェとショップを備えた複合施設で、「おいしい、たのしい、すこやか」な商品と体験を提供する店として始まった。注目すべきは、ショップには養命酒や関連商品を並べているものの、あえて養命酒製造という名前を表に出さなかったことだ。
複合施設「くらすわ」は、養命酒の既存イメージから完全に独立し、新しい価値提案を実現するための足がかり的存在だった。 さらに、出店には、より大きな意味合いがあった。それまでメーカーとして卸売中心のビジネスを展開してきた養命酒製造が、初めて本格的にB to Cビジネスに参入するきっかけとなったのだ。 この挑戦は、後に組織にも大きな変化をもたらすことになる。伝統的な製造業の文化を持つ養命酒製造にとって、小売業への参入は、顧客の生の声を聞き、ニーズを把握し、すばやく商品開発に反映させる。そんなビジネスモデルへの一歩だったのである。