京都の西大路通に現れる謎の急カーブ 大木が通せんぼ 世にも恐ろしい「清盛伝説」とは
京都市の西側を縦に貫く西大路通を下がっていくと、西大路八条(下京区)にさしかかる辺りで、何かを避けるかのようにぐいっとカーブしていることに気づく。近づくと、高さが10メートルは超えるであろう大木が鎮座し、道行く車を見下ろしている。あたりには森閑とした雰囲気が漂い、そばを走る車の音も聞こえないかのような気分になる。関係者を訪ねると、大木にまつわるちょっと怖くて不思議な伝承にたどり着いた。 【地図】若一神社のある場所。確かに道路が曲がっている
両脇にオフィスビルや医院などが並ぶまっすぐな西大路通が、北から眺めると、そこだけ右斜めに曲がっている。100メートルほど進むと、左斜めに曲がって、元々の直線上に戻っていく。カーブの部分に足を運ぶと、幹回りが3メートルはあるクスノキに目を奪われる。いかにも大樹、古木といった雰囲気だ。車も、クスノキのそばではどこか遠慮がちに走っているような気さえする。
若一(にゃくいち)神社のご神木だ。同神社は、平清盛が1166(仁安元)年に創建したとされる。清盛は翌年、武士として初めて太政大臣となり、栄達を極めた。清盛にあやかろうと、立身出世を願う参拝者が引きも切らない。
クスノキは清盛が手植えしたと言われ、崇敬されている。「木に手で触れたり、顔をくっつけたりして、エネルギーをもらおうという人が多い」と中村重義宮司(80)は語る。
中村宮司によると、昭和の前半に西大路通が整備される際、現在は道が走っている位置にあった社殿や社務所などは東側に少し引っ越した。クスノキも伐採や移植になりそうに思えるが、「清盛公が手植えしたという話は広く知られ、信仰されていた」ため、張り出した根や枝を整えるのみにとどめられた。だが、作業に着手すると、関係者にけが人が出たという。中村宮司は「木も、生き残るために必死なのだろう」と、人知を越えた働きに思いを巡らせる。
時を経て、市電が西大路通を走っていたころ、架線にクスノキの枝がかかるようになった。しかし、市側は切るのをためらった。怪異を恐れたと伝わる。