「演劇は人との摩擦の熱でつくられる」 父・井上ひさしの忘れられない言葉
「まったく時代に合っていない」 こまつ座というスタイル
こまつ座には、所属俳優は一人しかいない。創立期は、キャストもスタッフも旬の人をお願いしてプロデュースするだけの劇団という形態が出始めたころで、以来、こまつ座もずっとそのスタイルをとっている。 「でも、いまはまったく時代に合っていませんね。これだけ地方の高年齢化が進んでくると、受けるものは音楽とか、考えなくても直接的に楽しめるものが主流になってくる。そんな中で演劇の仕事をしていると、専属のスタッフやキャストがいて給料制にしたほうがどれほどいいかって思います。給料制にすることでもっとフレキシブルにいろんなところへ行けますし」 現在は、野村萬斎、広末涼子が出演する「シャンハイムーン」(栗山民也演出)が世田谷パブリックシアターで公演中のこまつ座。3月3日からは、5月5日に紀伊國屋サザンシアターで初日を迎えるラサール石井演出の注目作「たいこどんどん」の前売りが開始されるという。 「ラサールさんには恩義がありまして。父は、演劇界には義を通さない人が多いから、義を通せと。以前、ラサールさんに助けていただいたことがあって、どうしたらお返しできるかなといったら、ラサールさんが『じゃあこまつ座の演出させてよ』と」 父ひさしさんから受け継ぎ、こまつ座が今日も守り続ける義の中で生まれる作品だ。 「大きな意味で演劇が消耗品にならないように、と思っています。2.5次元も素晴らしいと思うし、商業的なミュージカルも素晴らしいですが、文学にもいろんなジャンルがあるように、こまつ座のお芝居もその中の一つであるわけですから、廃れないように、何か一石を投じられる劇団でありたいというふうに常に思っています」 もうとっくに、迷いはない。 (取材・文・写真:志和浩司)