「演劇は人との摩擦の熱でつくられる」 父・井上ひさしの忘れられない言葉
仕事の話が人生論に 「演劇界にはどうしようもない人が残っていく不思議」
話の内容は、ほぼ仕事のことだったそうだが、ひさしさんの場合は仕事イコール人生なので、仕事の話がそのまま人生論にもなっていたのだとか。 「あまり頑張ってる感が前面に出ている女性にはなってもらいたくないな、と。女の人はコスモスの花みたいに根っこはしっかりしているけど常に風に揺れているような感じがいいと。立食パーティーに行ったらお腹が空いていても絶対に食べるな、女の人がそういうところで食べている姿は美しくないとか。父なりの、こまつ座をこいつに継がせるにはこのままじゃだめだ的な必死感が伝わってきて」 集中してこまつ座を継ぐ者としての教えを受けた井上さんは、いまやどっぷりと演劇の世界に浸かっている。 「演劇界は魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした世界で、普通の企業だと『この人、仕事できないな』という人は自然に淘汰されるけれど、演劇界はどうしようもない人が割と残っていく不思議なところがあるんですよ。いろいろな仕事があって、どんな性格の人にも役割が転がっているんですね。だから、自分の立ち位置さえつかめば残っていけるんです。お芝居って区切りがなくて。私も同時進行でいくつか舞台を抱えて、なんとか全部予算内におさめていかなくちゃいけないので、悩む暇がないんですね。いつのまにか私も、きっと熱い人になってしまっているんだろうなって思います」
父から授かったもっとも忘れられない言葉
ひさしさんから授かった言葉は、今日も心の中に生き続けている。 「稽古場で問題が起きてもスタッフがとにかく後ずさりはしない、一歩でも前に進んでその日の稽古を終わらせる。だからスタッフの力は偉大だからね、って。それと、ガタガタとうるさくきてガタガタと仕事してうるさく帰るのはプロじゃないんだよ、と。プロというのは静かにきて淡々と仕事して、静かに帰ってくるもんだと」 そんな中で、もっとも忘れられない言葉があるという。 ーー演劇は人との摩擦の熱でつくられるもの。この摩擦を単なる摩擦ととらえるかエネルギーを生み出す作業ととらえるか、それによっても心構えが違ってくる。だから摩擦を怖がらないで。その熱で演劇はできているから。これを知らない人はみんな心を病むんだよ。 問題を悩みにすり替えちゃいけない。その問題をクリアにするためにはどうすればいいんだろうっていう切り替え方をしてください。悩む一歩手前で問題として解決しなさいーー 本当に人生の教訓になりました、と微笑む。