GX時代に必要な、真の「リスキリング」とは
人的資本経営の流れを受けて、大企業を中心に「リスキリングブーム」が続いている。産業構造の転換期を迎えるなか、リスキリングを企業の成長につなげる秘訣を聞いた。 ──「リスキリング」のブームが続いています。あらためて、なぜ今リスキリングが必要なのでしょうか。 柳川範之(以下、柳川):世界は大きな産業構造の転換期を迎えている。デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)が急速に求められるなか、日本では少子高齢化で加速度的に労働者の数が減少していくことが目に見えている。 「失われた30年」のポイントは、その間に人的資本に十分に目を向けてこなかった点にある。日本の経済や社会を活性化するためには、国全体で人材の生産性やスキルを高め、付加価値の高い産業や分野でも人が活躍していく必要がある。これが、リスキリングに注目が集まる主な理由だ。 ──化石エネルギーが中心だった産業や社会構造を、再生エネルギーを含めたクリーンエネルギー中心の構造に転換していくためには、どのようなリスキリングが求めらますか。 柳川:まず、石油化学業界や自動車関連業界、エネルギー業界など、国際社会がGXへの転換を特に強く求めている業界にかかわる人たちは、当然ながら現場で必要とされるスキルや能力が変わっていく。クリーンエネルギーに関する知見や、自分の担当業務においてそれらを活用するためのスキルを高めることが必要不可欠だ。 同時に、社会のエネルギー構造自体が変わるということは、すべての産業分野で商品やサービスの提供の仕方が変わることを意味する。GXの流れを受けて新たな事業がスタートしたり、既存の事業が縮小されたりすることも頻繁に起こるだろう。柔軟な発想で物事に取り組む、アイデアをかたちにするといったソフトスキルも身につける必要がある。 GXの推進に伴い、今後は雇用の流動性がより高まることが想定される。時代に求められるスキルを身につけておけば、今より高収入が望める職種や業種へのキャリアシフトの道も開けるだろう。ビジネスパーソンにはリスキリングを企業任せにせず、より良い仕事を求めて主体的にスキルを磨いていく姿勢も必要だ。 ──大企業の取り組みを見ると、「リスキリング」と「企業価値の向上や持続的な成長」との間には、少なからず距離があるように思えます。 柳川:手段であるべきリスキリングが目的化していて、必ずしも成果が上がっていない企業が多く見受けられる。リスキリングの本質は単なる学びの促進ではなく、個人の成長を企業や社会の成長に結びつけることにある。にもかかわらず、「やりたいことをやらせてみよう」というところでとどまっているのが現状だ。企業のリスキリングの課題はここにある。