GX時代に必要な、真の「リスキリング」とは
シニア世代にこそリスキリングが求められる
──勤務時間を活用してリスキリングを実施する企業も増えています。この場合、社員の人事評価はどのようになされるべきでしょうか。 柳川:まずは人事担当者や評価者が、勤務時間内のリスキリング活動を肯定的にとらえることが大前提だ。そのうえで、評価を考える際のポイントとなるのがジョブ型雇用やリモートワーク、兼業・副業の増加だ。従業員の働きを勤務時間で評価することは、もはや時代にそぐわなくなっている。これを機に、企業は労働時間で従業員を評価するという姿勢を改めるべきだ。もちろん、従業員には限られた時間内で十分な成果を上げる姿勢が求められる。 ──柳川先生は、人材の価値を高めつつ事業構造の転換に臨機応変に対応していくためには、個人の価値観や固定観念を「アンラーン」する必要があると提言しています。 柳川:アンラーンとは、これまでのスキルや経験を手放すことではなく、過去に経験したことを生かしながら、より未来で活用できるようにすることを意味する。 リスキリングというと新たなスキルや知見をインプットするものだととらえがちだ。しかし、新たなことをインプットする前に、まずはアンラーンを通じて個人のマインドセットに変革を起こすことが大切だ。つまり、アンラーンこそ、リスキリングの第一歩なのだ。 特にアンラーンが求められるのはシニア層の人たちだ。日本には、長期雇用を前提に20年、30年と働いてきたシニア世代が相当数いる。会社の方針に従って生きてきた世代の人たちからすれば、ある時期を境に急にキャリアの自立だ、リスキリングだと言われても困惑するのは当然だろう。しかし、人生100年時代を迎えた今、シニア世代にこそリスキリングが求められるのも事実だ。 凝り固まった考え方や発想を手放し、新たな価値観をもつことは大切なリスキリングのひとつだ。やりがいをもって生き生きと活躍し続けるシニア層が増えれば日本の社会はより活性化する。彼らのマインドセットに変革を起こすためには、企業の経営者層が「自身が変わることは、会社の成長はもちろん個人の発展にもつながるのだ」と説得力をもって伝えていく必要がある。シニア層が新たな可能性を見いだせるよう、企業にはより積極的に、リスキリングの環境整備に注力してもらいたい。 柳川範之◎慶應義塾大学経済学部卒、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。慶應義塾大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学研究科助教授、同准教授を経て2011年より現職。『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞社出版)をはじめ著書多数。
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