トランプの勝利で、米中激突は不可避なのか…?「トランプvs習近平の暗闘史」をプレイバックする
中国が「習近平がトランプに電話をした」と認めない理由
このように、3人の欧米メディア記者がしつこく、「電話なのか? 電報なのか?」と質問攻めにした。それに対して、中国側は「祝電を送った」と主張し続けたのである。 「祝電を送った」の中国語の原文は、「致了賀電」(ジーラフーディエン)。これだと、「電報を送った」と「電話をかけた」のどちらにも解釈できるため、欧米の記者は「電報なのか、電話なのか?」と聞き直したのだ。だが毛寧報道官は、「致了賀電」の一点張りで、どちらかを明確にしなかった。 電話でも電報でもどちらでもよいではないかと思うかもしれないが、そこはやはり「温度差」がある。例えば、石破首相がトランプ氏に対して、祝賀の電報だけで済ませていたらどうなるか? おそらく、アメリカのメディアが「電話をかけた」と一斉に報じているのだから、「電話をかけたのだろう。ではなぜ、中国側は「電話をかけた」と明確に認めることを、頑なに拒否したのか? ここからは想像になるが、習主席がトランプ氏にかけた電話は、中国側にとってあまり愉快なものではなかったし、極めて短時間だった。そこで中国側は、曖昧にした。そうは考えられないだろうか? ともあれ、最初からこんな「些細なこと」で、米中間に不明確な事態が生じているのだ。今後の2期目のトランプ政権における米中関係が案じられるというものだ。
トランプvs習近平の暗闘史
思えば、1期目のトランプ政権でも、米中間には「風雲」が吹き荒れていた。今後の行方を占うためにも、以下、簡単に「トランプvs習近平の暗闘史」を振り返ってみたい。 いまから8年前、2016年11月8日に投開票されたアメリカ大統領選挙で、トランプ候補は民主党のヒラリー・クリントン候補を破り、「奇跡の当選」を果たした。この時、中南海(北京の最高幹部の職住地)では楽観ムードが漂っていた。それは、主に以下の3つの理由からだった。 1. トランプは「理念の外交」でなく「商人(ディール)の外交」を行うだろうから、中国は与(くみ)しやすい。 2. トランプの「アメリカ・ファースト」政策によって、アジアでの米軍駐留体制からTPP(環太平洋パートナーシップ協定)まで、同盟国との関係が瓦解するだろうから、中国はありがたい。ヨーロッパとの関係も同様だ。 3. 政治のド素人であるトランプの無茶苦茶な言動によって、アメリカも自壊していくだろうから、中国には喜ばしい。 ところが、トランプ新政権の陣容が固まるにつれて、中南海は疑心暗鬼になってきた。それは、マイケル・フリン安保担当大統領補佐官、レックス・ティラーソン国務長官、ジェフ・セッションズ司法長官、スティーブ・バノン国家安全保障会議(NSC)首席戦略官・大統領上級顧問……の「親ロ派」の存在だった。トランプ新大統領が早期に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談し、米ロが組んで中国を封じ込めるのではないかと警戒したのだ。 いわば「逆ニクソン」(1972年にリチャード・ニクソン米大統領が電撃訪中して米中和解、ソ連を封じ込めたことの逆の現象)である。そんなことが起これば、2017年秋の第19回中国共産党大会を控えて、習近平体制が激震することになる。そのため、「プーチンより先にトランプに会う」ことに心血を注いだ。