「家に戻りたい」を叶える在宅・在施設看取りがさらに増える【2025年の医療を予想する】#7
【2025年の医療を予想する】#7 最近の医療のキーワードのひとつに「在宅・在施設」があります。前世紀なら、自力で日常生活が難しくなった高齢患者は、いわゆる「老人病院」に最期まで入院、というケースがよくありました。 篠山紀信さんも坂田利夫さんに続き…27年間で8.3倍増の「老衰」とは穏やかな最期なのか? しかし現在は、慢性期の高齢患者はできるだけ長く自宅や介護施設で過ごしてもらうのが普通になってきています。またそのための訪問医療や訪問看護の体制が、全国で整えられつつあります。後期高齢者医療保険と介護保険をうまく組み合わせることで、比較的少ない負担で、自宅や施設での療養ができるようになっているのです。 こうした変化の裏には、逼迫する医療財政を少しでも緩和したいという政府の思惑があります。在宅・在施設のほうが、医療費がかなり少なくて済むからです。また病院側としても、慢性期の高齢患者はあまりウェルカムではありません。病院としてやれることが少ないからです。 しかし最大の要因は「住み慣れた自宅に戻りたい」という患者側の要望が強まったこと。いくら病気と言えども、ほとんどプライバシーのない病院で過ごすのは苦痛ですし、好きなものも自由に食べることができません。しかし自宅なら、体が許す限り、自由に暮らすことができます。また自宅が無理でも、病院よりも住みやすい介護施設が増えてきています。 最近は看取りも自宅や施設で、という人が増えてきました。厚生労働省の死亡場所に関する統計によれば、2000年の時点で81%の人が病院など医療機関で亡くなっており、自宅は14%、施設は2%にすぎませんでした(その他が3%)。それが2023年には、医療機関70%、自宅17%、施設12%となっています。2025年には、自宅や施設で亡くなる人の割合が、さらに増えるのは確実です。 ただ自宅や施設で看取ってもらうためには、本人や家族のそれなりの心の準備が必要になってきます。その時が来ても、延命治療はせず静かに逝かせて欲しいということを家族によく伝えておく必要があります。また家族もうろたえたりせず、間違っても救急車を呼んだりしないで、冷静に対応する必要があります。 そろそろ老親が……という人は、いまのうちに本人の意思を確認し、自分たちの考えをまとめておくと、いざというとき慌てないで済むはずです。 (永田宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授)