健康医療データは新薬の源泉…万博を蓄積・利活用の起点に
「社会全体の健康維持に、技術で貢献できるようになる」(大阪府の吉村洋文知事)。来春開幕する2025年大阪・関西万博で、府市が出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」の目玉は、生体情報などを基にする「25年後のアバター(分身)」だ。個人を識別するリストバンドを装着し、ディスプレーやセンサーを備えた個室「カラダ測定ポッド」に入ると筋骨格や肌などの情報が読み取られ、「未来の自分」に出会える。
先端技術が並ぶエリアを巡れば、その効果が反映され、生まれ変わることもできる。大阪市内で20日に開かれた発表会では、ポッドを街中に設置することで、健康データを気軽に測定し、健康の維持にいかせる未来社会の構想も披露された。
復活の一手
医療産業では、新たなイノベーション(革新)の切り札として、健康診断などで得られた健康状態や、電子カルテなどの医療情報を総合した「健康医療データ」の活用が注目されている。
治験が効率化・高度化され、新薬を生み出すだけでなく、副作用の出やすい患者への投薬を避けるといった薬の使い方も向上する。
データは使われ、蓄積されるほど意味を増し、新薬の源泉として、恩恵が還元されていく。大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサーの森下竜一氏は「万博は老若男女、多様な人種のデータを蓄積でき、それ自体がレガシーになる」と話す。
政府が22年に設けた「医療DX推進本部」のもと、遺伝情報を網羅的に調べる「全ゲノム解析」によるデータの利活用は国際的な連携も始まった。医療データの活用は、創薬力復活に向けた一手であり、万博はその起点になり得る。
膨らむ市場
医学と医薬の発展に支えられた長寿化が進む中、健康上の問題がなく日常生活が送れる「健康寿命」をどう延ばすかは世界的な課題となり、ヘルスケア領域は成長分野との期待が高い。
経済産業省の予測では、国内のヘルスケア市場は25年、生命保険や自動車部品などと並ぶ約33兆円規模まで膨らむ。関西では、人工関節事業を展開する京セラが米企業を買収し、世界最大の北米市場にも参入。パナソニックホールディングスも、iPS細胞関連の培養装置の開発に取り組むなど、ものづくり企業がヘルスケア分野に注力する動きが盛んになってきた。
AI(人工知能)に代表される新技術と、関西が強みとする産官学の共創により、ヘルスケア産業を花開かせられるか。りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「次世代産業の知見が結集する万博をイノベーションの契機にできるかが問われる」と指摘する。