かつて「英国で一番美しい」と 言わしめたクーペ|1954年式 ACアシーカ・ブリストル
時としてはかなげにも映るエレガントなクーペボディに、独BMWに起源を求めることのできる名機ブリストル直列6気筒を搭載。そしてシャシーは、のちの「シェルビー・コブラ」にも流用される。謎多きイギリスの佳作スポーツカー、ACアシーカを紹介しよう。 【画像12枚】のちの「シェルビー・コブラ」にも流用される。謎多きイギリスの佳作スポーツカー、ACアシーカ 【1954年式 ACアシーカ・ブリストル】 今回紹介するのは、英国車通の間で珍重される超レアなモデル。かの「ACコブラ」のベースとしても知られるとともに、1950年代後半から60年代初頭の英国における、最も魅力的なミドル級スポーツカーとも称される「ACエース」のフィクスドヘッド(クローズド)クーペ版である。 名作ACエースの起源は、ポルトガル出身で英国に移住していたエンジニア、ジョン・トジェイロが、友人であるアマチュアレーサーの依頼で一品製作した、レース用のロードスター。トジェイロは、第二次世界大戦の直後からワンオフないしは少数製作のレーシングスポーツを手掛けていた人物で、彼の設計した鋼管スペースフレームは実に優秀なものと評されていた。 そのフレームにブリストル社製6気筒エンジンを搭載した「トジェイロ・ブリストル」は、英国各地のレースで頭角を現すのだが、その出来ばえに目を付けたのが、1901年創業の老舗自動車メーカー「AC」だった。
ACは当時アメリカ市場で人気だった2座席スポーツカーへの参入を画策する。
当時、世界最大の市場だったアメリカで人気の高い2座席スポーツカーへの参入を画策していたACは、トジェイロとの間に契約を締結。伊トゥーリング・スーペルレッジェーラ製バルケッタボディのフェラーリ166MMに酷似したスタイルを持つトジェイロ・ブリストルのボディを、社内のデザイナー、アラン・ターナーに命じてリファインさせたオープンスポーツ「ACエース(ACE)」が誕生。翌54年5月から生産を開始させた。 そして同じ54年の後半から追加されたのが、より耐候性・快適性に優れるとともに、リアに市販車世界初とも言われるハッチゲートを備えるなど、実用性についても画期的。そして、当時その効力が追求され始めたばかりだったエアロダイナミクスにも注力したフィクスドヘッド・クーペ「アシーカ(ACECA)」だったのである。 ACエース/アシーカには、ACが19年以来連綿と守り続けてきた2L直列6気筒SOHCエンジンが標準指定されたが、このモデルの名声を決定したパワーユニットと言えば、やはり56年からオプションとして選択可能となった英国ブリストル社製の直列6気筒OHVエンジンをあげねばなるまい。 ブリストル初の自動車「400」シリーズはもちろん、ACエースの起源であるトジェイロ・ブリストルにも搭載されたこの名機は、以前ブリストル406を紹介した際にもお話ししたとおり、独BMWから出向してきたドイツ人技師、フリッツ・フィードラーが、自身の作であるBMW直列6気筒ユニットをお手本に開発したもの。 元来が高級サルーンとして開発されたブリストルから、スポーツカーであるAC各モデル。さらには純然たるレーシングカーにも搭載され、スポーツカー耐久レースやグランプリレースでも大活躍した多様性も相まって、「50年代における世界最高の2L級ロードカー用エンジン」という評価が定着していたという。 ところが、ブリストル6気筒を搭載したACの命脈は、わずか5年に終わってしまうことになる。ブリストル社は61年デビューの「407」をもって、パワーユニットをクライスラー製V型8気筒OHVに変更。自社製直列6気筒の生産は終わりを告げた。
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