ステルス戦闘機は“強すぎて”大変!? 空自「F-35乗り」育成する苦労とは 唯一無二の飛行隊トップが激白!
F-35は訓練スタイルも革新的
「F-35は優れたステルス性能、先進的なセンサーシステムおよび高度に体系化されたネットワークにより、多様な任務に対応することが可能です。ただ、それゆえに、装具ひとつをとっても従来機とは異なり、戦技や戦術に関する考え方も従来とは異なる部分が多いため、他機種で十分な経験を有する操縦者であっても、機種転換教育時においては多くの苦労を要します」(反田2佐) F-35Aは単純に新しい戦闘機というワケではありません。航空自衛隊では初となるレーダーに見えにくいステルス機のため、その運用方法や戦い方は独自性が強く、搭載するレーダーや光学カメラなどの高性能なセンサーは従来の戦闘機よりも広い空間の情報を高精度で収集することが可能です。また、高度なデータリンク機能は戦闘機以外の異なるプラットフォームとの連携も可能なため、これまでの戦闘機ではなかった新しい領域に関わることになります。 一方で、これまでの戦闘機で重要だった空中戦での機体操縦の部分はコンピューターが制御しており、そこではパイロットの技量差は大きく出ないそうです。つまり、F-35Aではその戦い方が大きく進化したことで、パイロットに求められる技術や考え方も変化しているということであり、反田2佐が言う機種転換における苦労とは、そのことを指すのでしょう。 このようなF-35とそのパイロットに求められる能力の変化は、戦闘機での空の戦い方自体が変化している、そのものの表れともいえます。
第5世代戦闘機は伊達じゃない!
戦闘機の空中戦といえば、多くの人が映画『トップガン』のような激しいドッグファイトを連想するでしょう。しかし、現実の空中戦では戦闘機はミサイルによって遠く離れた距離で交戦します。加えてF-35Aは、優れたステルス性と高性能センサーによって、非ステルス機に対してはそれを一方的に行えるだけの能力を持っています。 ゆえに、F-35Aを操縦するパイロットに必要な能力は、敵機をドッグファイトで圧倒できるだけの操縦技術よりも、接近する前にそれを迎撃できる戦術的な考え方と状況認識能力の方だといえるでしょう。 「現在、302飛行隊には、それぞれ異なるバックグラウンド(これまで操縦してきた戦闘機や任務)を持つ戦闘機操縦者たちが所属しています。個々の経験や視点を持ち寄り、互いの長所を活かして切磋琢磨し、同じ目標に向かって個々の能力を向上させています。隊長としての私の役割は、飛行隊としての進むべき方向性(目標)を示すとともに、彼らの成長を支えることです。組織としてのパフォーマンスを最大発揮できるよう隊員とのコミュニケーションを重視して日々勤務しています」(反田2佐) 防衛省/航空自衛隊は、F-35Aに加えて垂直離着陸が可能なB型の調達も決めており、両タイプ合わせて147機を導入する計画です。今後は石川県の小松基地と宮崎県の新田原基地に新しい飛行隊が作られる予定です。ただ、前述したような理由から、これら新編部隊でパイロットとなる隊員たちは、ここ第302飛行隊で最初に訓練を受けることになります。 飛行隊の隊員たちは、通常の任務と機種転換教育課程の訓練という2つの任務を行っているため、非常に忙しい日々を送っています。しかし、自分たちの活動が今後の航空自衛隊の未来を形作ると認識しているからか、極めて士気旺盛で意識高く任務に従事していたのが印象的でした。
布留川 司(ルポライター・カメラマン)