寄付体験が発信され、善意の循環で寄付文化が広がる。公民連携による「メルカリ寄付」の挑戦
日本に昔からある助け合いの精神を、気軽な寄付の仕組みで復活させたい
――なぜ「メルカリ寄付」の仕組みを開発したのですか。 高橋:地震や災害などが起こった時に、企業からの寄付がよく報道されますが、我々メルカリも災害時に何か社会貢献ができないかという声は度々社内でも上がっていました。そうした中で、単にお金の寄付をするだけでなく、メルカリでしかできない寄付の形を模索していたんです。 そこで思いついたのが「メルカリ寄付」の仕組みです。今、手元に現金がなくても、使っていないものを売ればその売上金を寄付できる仕組みをつくることによって、現金での寄付に抵抗がある方や、今まで寄付をしたことがないという方にも、簡単に寄付をしていただけると考えました。 企業としても、私個人としても、この手軽さによって、日本により寄付文化を醸成し、定着させたいという思いもあり、運営を続けています。 ――メルカリは言ってしまえば営利企業ですよね。なぜ寄付文化の醸成を目指したのでしょうか。 高橋:まずメルカリが企業として大切にしている考え方に、「個人と社会のエンパワーメント」というものがあります。それを体現する形として、個人が日本中の人に対して商品を販売できる、「メルカリ」の仕組みを構築しました。 「メルカリ寄付」も、より簡単に寄付ができる仕組みを構築することで、今まで寄付をしていなかった人が社会変革の一助となるようなプレイヤーになれる、まさにそれはエンパワーメントだと考えました。そのビジョンが企業の目指す世界観と合致していたということが挙げられます。 ――高橋さん個人が、寄付文化を根付かせようと思った理由はなんでしょうか。 高橋:個人的な背景には2つの原体験があります。1つが、もともと私が自治体職員として働いていたことです。当時の私は、社会的な課題がどんどん多くなっていて、公的な仕組みや制度、税金だけで課題解決をするのは難しいのではないかと感じていました。 またもう1つの原体験として、私が幼少期をドイツで過ごし、日常的に寄付が行われるのを体験してきたことがあります。税金を払って公的な機関により解決することと、寄付をすることでNPOや慈善団体が解決する、その両輪で社会を良くしていくというのがヨーロッパでは当たり前でした。 これらの経験から、日本で社会課題を解決していくためには、寄付文化を根付かせること、自治体等と民間企業が連携する公民連携の形を広げていくことが重要になると考えるようになりました。 ――日本に寄付文化が根付いていない理由を、どう分析されていますか。 高橋:私は日本人が冷たいとか、社会を良くしようと思っていないなどとは考えていません。昔から誰かが結婚する時にはご祝儀という形でお金を持ち寄って結婚式を行う文化がありますし、農家間で田植えなどを互助的に行う「結(ゆい)」という仕組みもあります。 つまり助け合いの文化はあるけれど、社会変化が起きている中で、公的なものへの意識が薄れたり、慈善団体に協力する層が少なくなっていたりするということが課題なのだと思っています。 寄付したことがない、慈善活動に参加したことがない人が多いのであれば、その人たちがより抵抗が少なく関われる形をつくって、この助け合いの精神を復活させるということも重要なのではないかと思います。