「告発文書を世に知らしめたのは元局長ではなく斎藤知事その人です」なぜ知事らの行いが法律違反といえるのか、兵庫県議会・百条委での解説全文(後編)
誤った法解釈では他への悪影響も
民間事業者の場合、これら体制整備義務に違反すると、内閣総理大臣の委任を受けた消費者庁が、事業者に報告を求めたり、助言・指導・勧告をしたりすることができます。 しかし実は、国と地方自治体はこの権限発動の適用対象から除外されています(20条)。義務の対象からは除外されていませんので、自治体が体制整備義務に違反すれば、それは公益通報者保護法違反です。しかし規制権限の適用は除外されています。したがって、現行法の下で、消費者庁は兵庫県に対して法的な措置をとることができません。 ただし、本委員会において、公益通報者保護法の解釈やそのあてはめの方法について、一般論として消費者庁に見解を示すようお問い合わせになるのであれば、何らかの回答があるのではないか、と思われます。 私から見ますと、斎藤知事が記者会見で述べる公益通報者保護の考え方には、公益通報者保護法や内部告発者保護法制全般についての誤解に基づいているところが一部含まれているようです。そんなおかしな法解釈が流布されると、他への悪影響も考えられるので、正す必要がある、というふうに消費者庁としても考えているかもしれません。
珍しくもない告発だったのに、知事の発言のために大ニュースになってしまった
さて、もし仮に3月20日に知事がこの告発文書を目にしたとき、何もしなければ、スルーしていれば、どうなっていたでしょうか。内部告発者探しをしなければ、どうなっていたでしょうか。 私の推測では、おそらくだれも亡くならず、もしかしたら何も起きず、百条委員会もなかっただろう、と思われます。せいぜい、地元の新聞紙面で不祥事として取り上げられることがあったかなかったか、といったところであるように私には思われます。 私は一昨年まで33年、主に社会部や特別報道部で記者をしておりましたので、様々な組織に関する種々の文書を目にしてきました。そういう私の目からすると、この告発文書は特別に珍しいタイプの文書だというわけではありません。昨今の状況を前提とすれば話は別ですが、時間を3月12日に巻き戻して考えたとき、全国ニュースになるような話はなさそうです。 局長にまでなった人による内部告発だったことが知事自身の口によって明らかにされたため、逆に告発文書は、単なる匿名文書ではない特別の重みをもつことになったのです。 そして、「嘘八百」だと指弾する知事の言葉とともにこの告発文書は世に出ることになりましたので、この告発文書の中に一つでも二つでも真実が含まれていることが調査報道で明らかにできるなら、その一つひとつが大きなニュース性を持つことになりました。「嘘八百」と知事が公言したがために、そのためにかえって、一部の小さなことであっても「真実が含まれていて、実は嘘八百ではなかったのだ」ということがニュースになってしまったのです。 通常ならローカルニュースにさえならないような話が、関西圏全域あるいは全国向けの大きなニュースとして取り上げられるのは、3月27日の知事の記者会見での、亡くなった西播磨県民局長への罵詈雑言を弾劾する要素がそこに含まれ、それが県民局長の汚名をそそぐものと読者や視聴者に受け止められるからだと思われます。 この経緯を組織の危機管理の視点で見ますと、知事らの初動はまったく逆効果で、火のないところに、わざわざ火をつけたようなものです。 告発文書の存在を世の中に知らしめたのは、西播磨県民局長だった男性ではなく、斎藤知事その人です。