岩手県が絶滅危惧種イヌワシの生息地を公開の訳 巨大風車群の建設ラッシュ対策で練りだした秘策
2022年度に環境アセス手続きを始めた事業だけでも8件に上った。県の環境影響評価技術審査会で、イヌワシの生息地への配慮を求める委員側と、「配慮をするかどうかは、自分たちで調査を行って決める」と主張する事業者側が押し問答をする場面も見られた。 レッドゾーンなどの設定の根拠法令は、県基本条例上の自然環境保全の支障の防止措置および環境アセス省令。省令は経済産業省の省令で、通称・発電所アセス省令とも呼ばれ、「自治体による環境保全上の基準との整合」を求めた項目もある。
3つのゾーンを明示した立地選定基準は、県の環境影響評価ガイドラインを改定して盛りこんだ。 ■「トキの二の舞いは避けたい、しかしもう間に合わないかも」とイヌワシ研究の大家 イヌワシは、タカ目タカ科の大型猛禽類。頭から尻尾までの全長が81~89㎝、翼を広げると168~213㎝、山地帯に生息する。環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として掲載され、種の保存法に基づいて国内希少野生動物種に指定され、国の天然記念物でもある。
長年、イヌワシの生息環境の研究に携わってきた岩手県立大学名誉教授の由井正敏博士(80歳)は、全国のイヌワシの生息数について、「日本イヌワシ研究会の数字ですが、172つがい。親鳥の数はこれを倍にして344羽。あと幼鳥や若鳥を入れて、400羽前後ではないか」と説明した後、「トキの二の舞いにならなければいいけど。でももう遅いかもしれない」とため息をついた。 日本のトキは2003年、最後の一羽が新潟県の佐渡トキ保護センターで死亡し、絶滅した。1981年に環境庁(当時)は、佐渡島で野生のトキ5羽を一斉捕獲し、幼鳥のときに捕獲した別のトキとともに6羽で人工繁殖に着手したが、成功しなかった。その後、中国から贈られたつがいで人工繁殖させたトキの放鳥が行われ、野生のトキが増えている。
岩手県では、現在、「26つがい」が生息し、この数を維持することが目標、と公表しているが、実際にはつがいの数も減り続けているという。繁殖率も激減している。由井博士は「世界に生息するイヌワシの中でも日本にいるニホンイヌワシという亜種は一番小さく、森林地帯に生きるのが特徴。欧米のステップとか砂漠に比べて餌場が潤沢にないことが、厳しい」と話す。 ■風車群の建設で餌場が使えなくなる 風車群の建設の一番の問題は衝突事故(バードストライク)ではなく、「イヌワシには風車を避けて飛ぶ回避能力があるが、行動範囲が狭まり、使っていた餌場が使えなくなることが深刻だ」と由井博士は指摘する。