岩手県が絶滅危惧種イヌワシの生息地を公開の訳 巨大風車群の建設ラッシュ対策で練りだした秘策
「岩手のイヌワシは、非繁殖期に巣から20~25キロも離れたところまでエサを取りに行くことがわかっている。繁殖期には、親鳥のどちらかが幼鳥のそばにいなくてはいけないため、巣の周りでエサを取る」(由井博士)。つまり、営巣地からかなり離れた場所に風車を建てるので大丈夫、という問題ではないという。 2008年9月には、2004年12月に運転が開始された釜石広域ウインドファームの43基ある風車の1つにイヌワシが衝突した事故が起きた。由井博士によると、この事故の後、周辺にいた5つがいのうち3つがいが消えてしまうなどの影響があったが、最も深刻な影響は、それまで使っていた餌場が使えなくなったことだ。
「猛禽類は風車から半径500mの範囲の餌場は使わなくなるので、風車一基で78.5ヘクタールの餌場を使えなくなり、40基風車があると、約3200ヘクタールが餌場としてつかえなくなる」。由井博士はこう計算してみせたうえで、風車群がどんどん建つと、「餌場がなくなって、衝突しないまでも、飢餓で死んでしまう。あるいは、幼鳥も育たない」と心配する。 日本野鳥の会もりおかの代表、佐賀耕太郎さん(73歳)は、岩手大学で林学を学び、岩手県職員として林業、鳥獣保護、森林保全などを担当した。岩手県では、1000メートル級のなだらかな山地「北上高地」が重要なイヌワシの生息地になっている、という。
特に、戦後の拡大造林政策と、大規模牧野造成政策の結果、イヌワシにとって住みやすい環境ができた、と佐賀さんは説明する。「拡大造林政策では、広葉樹の森を伐採し、そこに針葉樹の苗木を植える。明るい草地ができて、苗木が大きくなるまでノウサギ、ヤマドリ、ヘビなどが来るので、イヌワシの餌場になる。伐採は順繰りに行われ、餌場は次々にできた。また、山の上を造成し、牧場を作って畜産とか酪農を頑張った。牧野もいい餌場になった」
その後、林業に勢いがなくなり、成熟した森が伐採されずに残るようになった。畜産や牧場も厳しい状態にある。こうした農林業の状況が、イヌワシの生息状況が悪化した背景にあった。 ■「列状間伐地」を作る取り組み そこで、イヌワシの保護団体は餌場作りに取り組んできた。1998年、保護団体はスギやアカマツの造林地に、イヌワシが飛び込んでエサを採ることができる「列状間伐地」を作る取り組みを始めた。当時、岩手県立大教授だった由井博士が考え出した間伐の方法だった。