中絶は「女性の罪」か――明治生まれの「堕胎罪」が経口中絶薬の遅れに及ぼした影響 #性のギモン
こうした反省から、あくまでも「当事者の立場」を考えた法律の策定が大事なのだと三ツ林氏は述べた。一方で、経口中絶薬については認めつつも、運用にはなお慎重な姿勢を見せた。 「メフィーゴパックに関しては、選びたいという女性がいっぱいいると思う。ただし、本格的な導入は安全性をしっかりと担保してからだと。そういう方針は、僕は間違いじゃないと思う」
その後の人生への影響を考えて
「中絶手術を受ける産科医から蔑むような視線を投げかけられたり、説教をされたりしました」 そうした女性の経験は、取材の過程でたびたび耳にした。ただでさえ罪悪感が強い中絶に及んで、医師からそんな扱いをされると、「もう妊娠できない」と思い込んだり、「自分はダメな人間だ」と自尊感情が低くなったりと、その後の人生への影響が少なくない。 そもそも完全な避妊方法は存在しない。そのうえ、フランスやカナダでは低用量ピルの内服率が約30%なのに対して、日本では2.9%(「避妊法」2019)と、極端に低い。そのなかで避妊に失敗し、中絶を余儀なくされる場合、どのような手段で臨むのかは女性にとっては大きな問題だ。
メフィーゴパックの臨床試験に参加し、現在は自院で薬による中絶を採り入れている「対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿」理事長の対馬ルリ子医師は、北欧の事例を引いて、日本が向かうべき方向性を示した。 「北欧では、中絶は女性にとって単なるアクシデント、そんな経験もクリアして次の妊娠に向けて進むんだ、という言葉をよく聞きました。中絶した人に向ける周囲の視線も前向きなものです。人生は長く続きますのでね」 対馬氏は、中絶の経験を「未来志向の視点に変えていく」ことが大事だと話した。 「診療で経口中絶薬を使うようになり、『負担の少ない方法で中絶ができてよかったね。今後避妊のことも、望みに沿って相談に乗るからね』って声かけができるようになった。中絶の経験も、医療者とのよい関係性ができたという『お土産』に変えていければ、日本も変わると思うんです」 古川雅子(ふるかわ・まさこ) ジャーナリスト。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障がいの当事者、医療・介護の従事者、イノベーターたちの姿を追う。「AERA」の人物ルポ「現代の肖像」に執筆多数。著書に『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)など。 --- 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。