中絶は「女性の罪」か――明治生まれの「堕胎罪」が経口中絶薬の遅れに及ぼした影響 #性のギモン
中絶問題を研究する塚原久美氏は、中絶手法の変遷が女性の意識の変化にも大きく関係していると語る。 「スプーン状の金属の器具で掻き出す掻爬法の術式そのものが侵襲的で、『中絶=罪』という女性のスティグマ(負の烙印)を強めていた側面があります。それが、1970年代に体にやさしい素材であるプラスチック器具で吸い出す『吸引法』という外科的処置が欧米に広まり、1980年代の終わりからは経口中絶薬も選択肢に加わった。海外は身体に負担の少ない方法をどんどん採り入れて、女性のスティグマを弱めていったんです」
世界にも堕胎罪が存在する国はあるが、韓国では2021年に堕胎罪が無効になり、「配偶者の同意」の要件も失効した。台湾でも中絶法改正に向けた動きが進んでいる。 一方、日本においては堕胎罪が廃止されずに残り、それを生かす形で優生保護法、そして母体保護法がつくられた。その結果、指定医師だけが中絶を許され、彼らの特権が揺るぎないものになり、経口中絶薬への取り組みが放置されてきた、という構図につながった。 日本の政治家は、堕胎罪の問題をどう考えているのか。 衆議院厚生労働委員会の委員長で、医師でもある衆議院議員の三ツ林裕巳氏(自民党)は、堕胎罪は見直しを検討すべきだと意見を述べた。 「堕胎罪の問題は難しいが、何らかは変えるべきだとは思います。たとえば、現行法では、胎児は3カ月までは法律上『物』として扱われる。人になるのは4カ月目からで、それ以降の中絶は『死産』だとして、出産一時金で実施される。運用が違うんです。さまざまな問題があり、堕胎罪が本当にこの時代に合っているのかというのは、検討しなければならないと思いますよ」 三ツ林氏は、優生保護法が犯した過ちにも言及した。 「この法律が1948年にできて、1996年まで続いてきた。普通見直すでしょう? その間、『この人は将来子どもを残しちゃいけない』といった優生条項が残っていた。政府がどう補償していくかを問われ、今議論しているところですが、著しい人権侵害ですよ。信じられないことに、当時は議員立法で全会一致で成立した法律だったんです」