「織りなされたツイード生地に、日本の色彩美を吹き込んで」。着物アーティスト・石岡すみれさんの着物の時間。
雪の日をイメージし、デザインしたツイード着物。 今日は母の帯を合わせました。
一般的に、着物では異素材ミックスは成功しないといわれるが、石岡すみれさんはそんな定説を軽々と乗り越えてきた。主宰する「SUMIRE ISHIOKA」はオリジナルツイード生地で仕立てる着物ブランドだ。 出身は群馬県。赤城山の麓で、刻々と移り変わる豊かな自然を目にして育った。10代で草木染研究の泰斗、吉岡幸雄氏の著作に感銘を受け、東京の着物専門学校に進学する。 「染織史から和裁まで伝統的な着物について幅広く学び、一方で、着物にイノベーションを起こしたいという夢も持っていました。その中で発想した“ツイード着物”の原点は紬です。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が交差して色が濁らず、むしろ新しい風合いと色調が生まれ出る。さらに独特の温かみで着る人の個性を引き出すツイードは、織の宝石だ、と惚れ込みました」 ツイード着物を作りたい! 同級生や教師に熱く語ると、厚地だから無理では?などと否定的な意見が返ってきた。それでもサンプルを作り個展を開くと、新鮮な着物だと高い評価を受ける。在学中に起業を決意した。 「はじめは既製のツイード生地を使って、でも、やはり生地から自分のイメージどおりに作りたいという思いが強くなり、デザイン画を手にテキスタイル工場に幾度も通いました」 思いを汲み取ってくれたのは岩手の工場だった。軽やかさとしなやかさを備えつつ精緻に織り上げる技術で、国内外の有名メゾンから発注を受ける工場だという。 「ツイードは西洋発祥の生地ですが、私のツイードは、実は平安時代に始まる襲(かさね)の色目から発想しています。たとえば今日の着物は『ある雪の日』と名づけました。瑞々しい氷、その下で凛と春を待つ自然の力を表現したものですが、つやのある白と無地の白を重ねる『氷襲(こおりかさね)』にインスピレーションを得ています。日本人の独特な色の感性、そしてこの国の美しい四季をツイードで表現したいんです」 そんな石岡さんには大切なパートナーがいる。専門学校の同級生・桒原(くわばら)カンナさんだ。 「ツイード着物の話をした時、彼女だけが真剣に耳を傾けてくれました。卒業後、和裁所に勤めていたところを口説き落として専属で来てもらったのは、彼女の高い技術を知っていたから。ツイード着物では“通し”と言って、格子模様が全身途切れずにつながるよう仕立てています。一般的な着物地より厚地で、しかも様々な種類の糸で織り上げるツイードで行うのは非常に難しく、彼女なしではブランドは成立しません」 通しだからこそ視線が散らず、ツイードの色調の美を真っすぐに感じとれる。 「はい。そして具象柄ではないぶん自由に見立てていただくことができ、その日のイマジネーションで帯を選ぶ楽しさがあります」 こうして無我夢中で走ってきた10年間。今ではツイード羽織、ツイード雑貨、着物の裾除けから発想した巻きスカートなど、セカンドラインも人気を博す。そして伝統をアップデートしていきたいという思いから、今年、さらなる新しいプロジェクトを始動した。