ラスベガスで年間最優秀KO賞の劇的勝利! 喜びを爆発させる中谷潤人に師匠ルディ・エルナンデスは静かに諭した
闘病中、高額な化学療法による治療費はトップランク社CEOのボブ・アラムが援助した。そして、葬儀のコーディネートを申し出たのはヘナロの現役最後の相手、フロイド・メイウェザー・ジュニアで、費用も負担した。 ただし葬儀自体には参加せず、「税金対策で名前を貸しただけだ」と嘯(うそぶ)いたことは、アメリカのボクシングファンの間ではよく知られている。それは「マネー(金の亡者)」の異名を持つメイウェザーのもうひとつの顔をのぞかせるエピソードだった。 ヘナロが難病に侵されていると知ったとき、メイウェザーは「どうしてヘナロなんだ」と泣き崩れ、側近に「世界一の名医を探せ」と怒鳴り散らしたそうだ。 1998年10月3日、メイウェザーがヘナロの持つWBC世界スーパーフェザー級のタイトルに挑戦したのは若干21歳のときだった。 メイウェザーは早くから将来のスター候補と期待され、プロ転向わずか2年で17戦全勝13KOと驚異的なペースで凄まじい結果を残していた。しかし大方の予想は「経験に勝るヘナロ優勢」。ところがいざ試合が始まるとメイウェザーはエルナンデスのパンチをことごとくかわし、攻撃でもスピードで圧倒して8ラウンドTKO勝利した。 メイウェザーは試合後、リングで人目もはばからず号泣した。当時の愛称は「マネー」ではなく「プリティ・ボーイ」。ディフェンスに長けて顔に傷ひとつ付かないことから付けられた愛称だが、ヘナロ戦の勝利を境に、童顔の天才はこの後プロ戦績無敗で5階級制覇という伝説をつくることになる。一方、王座陥落したヘナロはメイウェザー戦を最後に、引退を決めた。 * * * 「世界チャンピオンを目指してボクシングを続けてきましたが、実際になってみると、面白いことに団体統一戦や複数階級制覇など、次の目標が見えてきた。そういう意味では、最終目標はないのかもしれません。常に追い続けるというか、求め続けるボクシング人生なのかなと思うので、これからもさまざまな挑戦を続けていきたいですね」(中谷) ロスに出発する直前の忙しないタイミング、練習後の疲れた状態にもかかわらず、中谷は嫌な顔ひとつせず長いインタビューに応じてくれた。帰国は2月5日。1ヵ月間の合宿でルディから何を学び、どんな成長を遂げて戻ってくるのか。再会を約束してジムを後にした。 (第5回は明日配信!) ■中谷潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日生まれ、三重県東員町出身。M.Tボクシングジム所属。左ボクサーファイター。2015年4月プロデビュー。2020年11月、WBO世界フライ級王座獲得。2023年5月にはWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し2階級制覇達成。26戦全勝19KO。2月24日、東京・両国国技館にてアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)の持つWBC世界バンタム級王座に挑戦する 取材・文・撮影/会津泰成