ジーコが鹿島アントラーズに与えた影響は絶大…クラブ全体に染みつかせた「スピリット」の深層
クラブ全体に染みつくジーコスピリット
ジーコスピリットはサッカーの競技面のみならず、クラブ全体のマインドとして染みついている点が興味深い。事業もそうである。一例を挙げれば、胸スポンサーは1996年からトステム(スポンサー契約自体は1994年)、2011年から住生活グループとの合併に伴ってリクシルに移行し、背中スポンサーのイエローハットは1995年からずっと関係を継続させている。 筆頭株主の企業名や商品名が入らず、胸スポンサー、背中スポンサーという形で30年近く同一企業との契約を続けているのはJリーグ全体を眺めてもレアケースだ。 かつて前出の鈴木から「パートナー的なつながりになっている。(パートナーが)横のつながりを持ってもらえるような関係づくりを意識している」と聞いたことがある。 アントラーズをハブにしてもらうべく、試合開催日にはカシマスタジアムの一室をビジネス部屋としてパートナーに開放。フットサル大会などイベントを催して「横のつながり」の交流を深めてパイプを太くしていくことは企業側のメリットにもなっている。 今でこそプロスポーツクラブの経営における「クラブのハブ化」は半ば常識とされるが、アントラーズは早い段階から取り入れていたというわけだ。スポンサーまたはパートナーに対してもファミリーとして接してWin-Winの関係性を構築できたのも、ジーコスピリットなくしては語れない。 アントラーズのホームタウンである鹿行エリアのホームタウン人口は約28万人だという。大都市にあるクラブと比べれば商圏は小さく、このクラブは常に危機感を持ってきた歴史がある。 発展していくためには勝たなければならない、まとまらなければならない、そして愛されなければならない。2019年からメルカリが筆頭株主に移行して新体制となってもそれは変わらない。
安定しないアントラーズの行く末
今回、来日したジーコに雑誌のインタビューで話を聞ける機会があった。ジーコスピリットについて尋ねると、彼はこう言った。 「家を建てるにしても土台がしっかりしていないといけない。そうでなければいくらいい建物であっても崩れてしまう。私が選手時代に経験してきたものをすべて落とし込んでメソッドにした。それはサッカーをするだけではなく、休みだったり、自己管理だったり、姿勢だったりを、植えつけていった。 私は(選手時代に)すべてを勝ち取れたわけではなかったが、勝ち取るための可能性を少しでも上げていけるようにやってきた。それをここに落とし込んだことが土台になり、一つの芯になっているのだと思うことができている」 ジーコが築いた土台はアントラーズの源であり、かけがえのない財産である。 芯が揺らいではいけない。近年、監督交代が続き、タイトルから見離されているアントラーズが目を向けなければならないのは、建物のほうではなくむしろ30年経った土台のほうでないだろうか。今こそジーコスピリットにしっかりと立ち戻るべきではあるまいか。
二宮 寿朗(スポーツライター)