京都在住の花房観音さんと一緒にたどる、京の旧跡が伝える9つの人間ドラマ。
恋も地獄も、その営みは、人が交わるところあれば今も昔も変わらない。 京都在住の花房観音さんが語り下ろす、9の歴史物語。
まだ見ぬ京の街でそこに生きた人に、思いを馳せる。
作家の花房観音さんは京都でバスガイドをしながら小説を執筆している。 「京都はリピートするのが楽しい街ですよね。でもせっかく行くんだったら、同じところばかりでなく、あまり観光化されてないところも押さえておくと楽しみがもっと広がると思います」 京都のすごいところは日常の街中に思いもよらない歴史や史跡が、当たり前のように共存していること。 「歴史には人間ドラマがあるわけで、人間の有りようというのは昔も今もそう変わらない。だから面白い。そんな背景を知っていると、お寺一つ訪れた時でもきっと感じ方が変わります」 今回、花房さんが案内をしてくれたえりぬきのスポットは9カ所。 「観光バスでは行かない京都です(笑)。自分の足で確かめてみてください」
紫式部は地獄に落ちたといわれています。
引接寺のご住職によれば、仏教には嘘をつくと火炎(かえん)地獄に落ちる戒律がある。式部は嘘こそつかないものの、源氏物語という多くの人々を惑わす虚構を作り上げて、その咎により最後は地獄に落ちたと。私はそのことを聞いて、作家冥利に尽きると思いました。
それだけ物語にはリアリティがあったということだから。引接寺には彼女の供養塔があります。隠れた源氏物語のスポットです。
京の八百屋の娘だったお玉さんはある日、徳川三代将軍・家光に見染められます。そして側室になるばかりでなく、産んだ綱吉が五代将軍になりました。桂昌院(けいしょういん)とはそのお玉さんのこと。寄進などをして縁深いこの今宮神社は彼女の名前にちなみ“玉の輿神社”と呼ばれるようになりました。
参拝をして絵馬などを拝見すると、多くの女性の玉の輿願望が綴られています。女の欲望とは深いもの、と感心する反面、女の欲望は正直であるなぁ、としみじみ思うのです。