「シャーペン描きの『鬼滅の刃』にいいねがついたのが嬉しくてーー」絵を見られるのが恥ずかしかった女性が新人賞に応募したワケ
「家事、仕事、育児に追われて気がつけば40代に」 大正時代の東京を舞台にした漫画『大正學生愛妻家』(粥川すず)が、SNSを中心に大きな話題を集めている。11月に発売された単行本も即重版が決まり、1話を発信したXの投稿は5.2万いいねを超えている。粥川すずさんに漫画家デビューまでの経緯を聞いた。 【画像】大正時代を舞台にした漫画『大正學生愛妻家』 ーー粥川さんの連載デビュー作『エリートは學び足りない』の1巻の帯では、古屋兎丸先生が「今までどこに隠れてたんですか!?」とコメントされていました。粥川さんは「ちばてつや賞」出身ですが、どういった経緯があって漫画を投稿されたのでしょうか? 私の家では、本も漫画もいっぱい読めと言われていて、父や兄の買った漫画がたくさん置かれていたんです。なので幼稚園の頃から漫画漬けで、いっぱい絵を描いていました。周りからは「絵が上手だね」と言われるにつれて「漫画を描きたい、漫画家になりたい」と思っていました。ただ、誰かに言ったこともなかったし、ちゃんとした漫画を完成させることもありませんでした。唯一、学生の頃、地元の絵画教室に油絵やデッサンを習いに通ったことがあるくらいでした。 ーー趣味の範囲で絵を描くのを楽しんでいたんですね。その頃から、大正時代について描きたいと思っていたんでしょうか? 自分が好きなものがバレちゃうのがとにかく恥ずかしかったので、大正時代について描くということもありませんでした。当時からペン入れもせず、人様に見せるようなものを描くことはなくて、あくまで自己満足で済ませてきたんです。ただ、成人して結婚して働いて子育てをして…という生活のなかでも、漫画家への夢は抱いたままでした。 ちばてつや賞一般部門募集告知より/粥川すず
家族にも黙って応募…
そんな頃に、『鬼滅の刃』のちょっとした漫画や絵をシャーペンで描いたりして、pixivに載せていたらコメントをくれた方たちがいたんです。それはもちろん『鬼滅の刃』がすごいからなんですが、描いたことに「いいね」が返ってくるってすごく嬉しいんだなと思って、やっぱり漫画家に挑戦してみようという気持ちになりました。 ーーちば賞にはどうして応募したんでしょうか。 大好きだった『鬼灯の冷徹』の江口夏実先生がちばてつや賞の出身だということを思い出して、応募してみたんです。子供たちも手がかからなくなっていたから、ここでひとつ頑張ろうと。家族の誰にも漫画を描いてるとは言わず、丸ペン一本で描いたのが『コリン先生随行録』(第76回ちばてつや賞一般部門入選)でした。モーニング編集部からお電話がかかってきた時に、はじめて家族に話をしたので「母ちゃん漫画描いてたの!?」とびっくりされました。すごく嬉しかったのを覚えています。 さらに続きとなる記事<「“住み込みのメイド”がサラリーマンの家にーー」大正から昭和初期の女中という仕事>も、ぜひご覧ください。 粥川すず/漫画家。オホーツク地方在住。 『コリン先生随行録』 で第76回ちばてつや賞一般部門入選。『エリートは學び足りない』(全2巻)。明治・大正・昭和初期の庶民文化が大好き。近代学生文化・旧制高校に心惹かれる。
現代ビジネス編集部