こんな人生になるはずじゃなかった…新卒時代から贅沢せず50歳で念願の「FIRE」を達成した会社員、念願叶ったはずが〈後悔〉が押し寄せる理由
経済的自立と早期リタイアを意味するFIRE。FIREすれば「お金の悩みから解放される」「幸せになれる」そんなイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、そうはならないケースも少なくないようです。本記事では、29歳でFIREを達成したヒトデ氏の新刊『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)より一部を抜粋・再編集し、念願のFIREを実現したものの後悔に苛まれる結果になった男性のエピソードをご紹介します。 【早見表】年収別「会社員の手取り額」
〈登場人物〉 ・佐藤智也…FIREしたいと願う25歳会社員。不思議なネコ小鉄を拾った。 ・小鉄…1万回生きたネコ。人間の言葉を話す。これまでの猫生で見てきた飼い主たちのFIREの成功と失敗の記録を共有できる。今回は過去の飼い主である西村賢一の記録を智也に共有。 ・西村賢一…小鉄の元飼い主でFIREを実現した。
FIRE失敗パターン:西村賢一(35歳)男性
FIREしたいが資産も守りたい コーヒーをひと啜りした賢一さんは、2枚横並びにした大きなディスプレイを前に何やら悩んでいるようだ。こっそり覗き見るようで悪い気もするが、PCの画面を見て僕は仰天した。 表示されている証券会社のサイトによれば、彼の資産額は6,000万円を超えていたからだ。 「ちょっとちょっと、この人超金持ちじゃん」 「彼は新卒の頃から贅沢もせず、ずっと投資を続けていました。始めたタイミングも良かったため、こんな状態になっています。そもそも会社のお給料や待遇面もすごくいいのですが」 「僕とはちょっと前提が違うなぁ」 今25歳の僕より一回りほど年上とはいえ、まだ若いのに数千万円の資産。僕だって同年代の中ではかなり頑張って投資にお金を回している方だとは思っていたけれど、それでもこんな金額は夢のまた夢だ。仮に同じ年齢まで投資を続けてもここまでは資産を増やせないだろう。 エリートとの違いを見せつけられたようで、少し凹んでしまった。しかし、そんな資産額を眺めてニヤニヤしているのかと思えば、彼の表情は険しい。 「なんでだよ。もっと楽しそうにしろよな。6,000万円だぞ」 「彼には彼の苦悩があるのです。彼の心の声を聞いてみましょうか」 賢一さんの心の声が感じ取れた。もう、なんでもありだ。 (ついに、目標としていた6,000万円の資産額を達成した。これで、理屈上は、「4%ルール」に則れば、FIREができるはずだ) なんて羨ましいんだろう。まさにFIRE達成だ。賢一さん、よく頑張りました。おめでとう。これからは最高に自由な日々を過ごしてね。 (でも、今4%分を売って、現金に変えるのか……?) そりゃあ、そうでしょう。毎年、資産運用額の4%未満を生活費として切り崩していれば、30年以上が経過しても資産が尽きる確率は非常に低い。それが4%ルールだ。何に悩むことがあるの? さあ、辞表を叩きつけて、FIRE生活の第一歩を始めよう。 しかし、賢一さんは腕組みをしたまま考え続けている。一体、何を考えているのだろうか? 「よく見てください。資産額、少し減ってますよ?」 賢一さんの悩みを理解できずにいると、小鉄が指摘してくれた。確かにディスプレイを改めて見ると、「前月比3%減」となっている。どうやらこのときは下落相場のようだ。結局、賢一さんはこの日、持っている資産を売却することなく出社をした。 そして次の日も、その次の日も、毎朝同じように悩んでは、出社を繰り返していた。そんな日々を過ごすうちに月末になり、賢一さんの口座には会社の給料が振り込まれた。その振込履歴を見て、ずっと仏頂面で悩んでいた賢一さんが、今までとは違う笑顔を見せた。 (給料があれば、資産を取り崩さなくても生活できる!) 何を当たり前のことを言っているのか……。この人、エリートじゃなかったの? 「ちょっと小鉄、これどういうことなの?」 「わからないですか? 賢一さんはこれまで資産を増やすことを拠り所に投資をしてきたんです。その資産を切り崩すということは、彼にとって本当に大きな恐怖なんですよ」 「いやいや、わからんでもないけどさ、それって手段と目的が逆転してるじゃん。自由な生活を目指して資産増やしてるのに、そこに縛られてどうすんのよ」 「智也さん、結構鋭いことを言いますね。おっしゃる通りなんです。でも、彼にはそれがわかりません」 初めて小鉄に褒められてちょっと嬉しい気分になった。しかし、こんなに賢い人でも、そんなふうにわからなくなってしまうものなのだろうか。 結局、その後も賢一さんは出社をし続けた。資産を取り崩していくことへの強い抵抗感は拭えないようだ。定期収入があれば、その大事な資産を取り崩す必要もないし、元本も増やしていける安心感が伝わってくる。 楽観的に考えれば、すぐにFIREできるかもしれない。しかし、慎重な賢一さんは、今後の市場の変動や予期せぬ出費を考えると、どうしても安全策を取らざるを得なかったのだろう。 はじめは「何をバカなことを!」と思っていたが、実際に彼の気持ちを体感するうちに、疑問が湧いてきた。果たして自分が同じ立場になったとき、スパッと辞めるという決断ができるだろうか?
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