主権尊重のはずが露の侵略防げず…ブダペスト覚書30年、NATO加盟に固執するウクライナの苦い経験
【ロンドン=蒔田一彦】米英露3か国とウクライナが「ブダペスト覚書」を署名して5日で30年がたった。ウクライナが旧ソ連から引き継いだ核兵器を廃棄する代わりに、米英露が主権を尊重し、安全を確約する約束だったが、ロシアの侵略を防げなかった。ウクライナが和平交渉の前提として、北大西洋条約機構(NATO)加盟確約に固執するのは覚書の約束をほごにされた苦い経験がある。 【写真】ブダペスト覚書の文書を手に取材に応じるウクライナのシビハ外相
ウクライナのアンドリー・シビハ外相は5日、マルタで開幕した全欧安保協力機構(OSCE)の閣僚会合でこう語り、覚書に反して南部クリミアを併合し、侵略にも乗り出したロシアを厳しく非難した。
覚書は、旧ソ連の残した核兵器をウクライナが放棄した核軍縮の成功例とされる一方で、ウクライナには「過ち」だったとの評価が広がる。
核の放棄と引き換えに「領土の一体性の尊重と将来を自由に選択する権利」(シビハ氏)を期待したが、NATOの拡大を警戒したロシアに一方的に破られたからだ。
露外務省報道官は5日の声明で「覚書は条約ではなく、国際法上の権利や義務を発生させるものではない」として、ロシアが覚書に違反したというのはウクライナによる「偽情報」と主張した。
強い抑止力
ウクライナは覚書に伴う「苦い経験」(同国外務省)を踏まえ、NATO加盟を追求している。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日のビデオ演説で、「単なる署名や約束だけでは十分ではないことは世界の誰もが知るところになった」と訴えた。
ウクライナがNATOに期待するのは、北大西洋条約第5条に基づく強い抑止力だ。この条文により、加盟国への武力攻撃を米国を含む全加盟国への攻撃とみなし、加盟国が一体となって反撃することができる。
NATOがウクライナの将来的な加盟を認めたのは2008年。それから16年が経過した今も正式な加盟手続きは始まっていない。NATOは今月3~4日、ブリュッセルで外相理事会を開いたが、加盟問題では進展はなかった。