【日本未上陸】カリブ海の伝統を讃える「ザ・クロス」 世界で最も希少な綿花で、脱植民地主義の物語を紡ぐ
今年9月に、パリ・ファッション・ウィークが公式に認める唯一の合同展示会「トラノイ」が日本に初上陸した。約150のブランドが出展する「トラノイ・トーキョー」のなかで、ひときわ目を引いたのが、カリブ海の伝統に根差したブランド「ザ・クロス(The Cloth)」だった。 同ブランドは1986年にロバート・ヤングにより設立された。 2017年に人類学者のソフィー・バフトン(Sophie Bufton)がロバートとともにこのブランドの新しい会社を設立し、CEOに就任。以来、カリブ海を代表するデザインブランドの一つに成長している。 同ブランドはカリブ海特産の希少な西インド諸島海島綿を使用し、伝統的な「アンチフィット」技法と独自のアップリケ技法を融合。避難民コミュニティの文化を反映したウエアラブル・アートとして、カリブ海の伝統を現代に継承している。 本インタビューでは、ブフトンCEOに、ブランドの美学から独自のアップリケ技法まで詳しく語ってもらった。
カリブ海との出会い ー 人類学者からファッションへ
ー「ザ・クロス」はどのように発展してきたのでしょうか? 「ザ・クロス」が誕生したのは1986年、私が生まれるずっと前です。2014年、アメリカの小さな教養大学のダンス学部長のクリスタル・ブラウン教授に招かれ、ダンスとパフォーマンスにおける「マスキング」の人類学的研究を行うことになりました。彼女は私を、トリニダード・トバゴのマケダ・トーマスが設立したニュー・ウェーブス研究所で人類学の研究を行うよう誘ってくれたのです。 イギリス出身の白人である私は、これまで知ることのなかったイギリスの植民地時代の歴史に大きな衝撃を受け、この経験は私の心に深く響きました。単なる研究にとどまらず、この地域に意義ある貢献をしたいと強く思うようになりました。 その滞在中に「ザ・クロス」の創設者ロバート・ヤングと出会い、布という素材、特に西インド諸島のシーアイランドコットンについて、そしてブランドとしての「ザ・クロス」の脱植民地化をテーマに意見を交わしました。 カリブ海地域はこの最高級で希少なコットンを生産できる世界で唯一の場所でありながら、地元では糸紡ぎや織物製造の基盤が整っていないため、生地はすべて輸入に頼らなければなりません。 こうした状況と、公正な未来を築きたいという思いから、この問題解決に取り組む企業として2017年に「ザ・クロス」を再始動させました。 私たちは、それぞれの資源を持ち寄り、ロバートの創設した「ザ・クロス」という名のもと、ファッションブランドとしてだけでなく、「メイド・イン・カリブ」の新たな価値を創造することを目指して事業を展開しています。