国策ラピダスとTSMC“2つの戦略”で決定的な差、早大・長内教授が「ビジネスにストーリーがない」
ラピダスにはそうしたストーリーがなく、とにかく「技術的に新しいものを作ればAIか何か向けに売れるはず」という思い込みがある。戦略の基本は「どう製品を差別化するか」と「どう敵がいない新しい市場に出るか」。こうしたビジネスのありように対する考えが、まったく見えてこない。 ■TSMCのさまざまな施策 ――ビジネスのありようとは、具体的にどのようなものでしょうか? TSMC創業者のモリス・チャンは、台湾当局のプロジェクトで新規開発案件を進めるとき、エンジニアにビジネスマインドを持たせるために「フィフティ・フィフティ」の制度を導入した。開発費の50%は税金から出す、残り50%はエンジニアが自分で民間からの投資を募ってこいと。
そうすることで、ビジネス的にありえないストーリーでは出資が得られず研究が前に進まない。結果的にエンジニアがビジネスマインドを高めていくしかなかった。 そういうさまざまな施策があって今のTSMCがある。技術習得からビジネスまで、エンジニアが全体を見られる状態を作ったことが大きかった。 日本のエンジニアが単に技術領域でがんばっても、TSMCには絶対になれない。TSMCより規模の小さいファウンドリーを目指して、この業界で本当に生き残れるのかは怪しい。
――ラピダスは差別化戦略として、新しい製造方法を導入することで製造期間を大幅に短縮することを掲げています。 戦略の可能性が狭すぎる。スピード戦略を掲げて、達成できなかったときにどうするのか。プランBがない。そうとうな額の公費を長い間つぎ込んだ末にプランBがないというのは、許される状況ではない。 もちろんラピダスが追い詰められた結果、そこでブレイクスルーを生み出す可能性はゼロじゃない。もしかしたらTSMCをはじめ大手企業は、規模が大きいのでラピダスのような効率化を図らなくてもよかっただけなのかもしれない。でもラピダスが実現できたら、競合も同じことをやり始めるだろう。そのとき、ラピダスの優位性は何になるのか。