なぜ、謎の「クラフト〇〇」が増えているのか 大企業が次々に参入する理由
クラフトが「定番」になりそうなワケ
「そば」の前例があるからだ。 「手打ちそばの名店」でそばに歯応えがあったり、のどごしのよさをうりにしているところがある。あれも考えてみれば各店の職人の腕に左右される「クラフトそば」である。 だが、実はこれは「傍流」だった。明治時代に発明された製麺機が普及し、昭和に入り、戦後もそのまま「機械打ちそば」が主流だった。それが1960年代後半から田舎の農家で使っていた古道具や農具が、東京の百貨店で高値で売られるような「民芸品ブーム」が過熱して、その流れで1970年代から「手打ちそばブーム」が起きる。そのようなニーズに対応する形で「そば打ち職人」が急に増えたというわけだ。 手打ちそばの名店として知られる「藪蕎麦 宮本」(静岡県島田市)の主人、宮本晨一郎さんも当時をこのように振り返っている。 「宮本さんが修業していた1970年代は機械打ち蕎麦の全盛期。修業先の『池の端藪蕎麦』もご多分に漏れず機械で蕎麦を仕立てていた。手打ちの技術で唯一の指針となったのは、同じ上野にある『蓮玉庵』の店主が修業先に来て実演してくれた蕎麦打ちだ。そのとき目にした工程を脳裏に焼きつけ、あとは自分なりに工夫をし、独学で精度を高めてきた」(dancyu 2023年6月24日) つまり、われわれが今「伝統の味だなあ」と喜んで食べている「手打ちそば」は、たかだか50年前の「手打ちそばブーム」という、いわば「クラフトブーム」によって定着した新しい食のスタイルなのだ。 ということは、これまで紹介してきた数々のクラフト食品、クラフト食材だって消費者に受け入れられ、いつの間にやら「定番」のポジションにつく可能性もあるということだ。
既に成功している大手企業も
クラフト餃子やクラフトフィッシュの刺身をさかなにクラフトビールを飲み、時にはクラフトミートの焼肉を堪能、シメにクラフトラーメン……。そんな「職人のこだわり」「手づくり感」にこだわった「クラフト専門レストラン」が至る所に増えていくかもしれない。 そうなると大企業チェーンも「便乗」していくだろう。既にそれで大成功しているところもある。うどんチェーンを展開する丸亀製麺(東京都渋谷区)だ。 今オンエアされているCMで「丸亀製麺には、すべての店に麺職人がいる。」というキャッチコピーを押し出しているように、丸亀製麺は各店ごとに熟練の職人(麺職人)を配置しているのが特徴だ。そのような意味では、「クラフトうどん」のチェーン化に成功しているといってもいいだろう。 このような「クラフト感訴求の成功モデル」をパク……ではなく、参考にする大手外食チェーンもあらわれるかもしれない。例えば、従来のファミレスより職人的なこだわりを強めた「クラフトファミレス」。あるいは、手間暇かけた熟成肉や稀少な高級肉しか使わない「クラフト牛丼」――。 「バカバカしい」と笑う人も多いだろうが、これまで見てきたように、「職人のこだわり」という付加価値を示す「クラフト◯◯」は言ったもの勝ちの側面もあり、消費者が食い付けば、大企業はスピード感をもって便乗してきた、という動かし難い事実があるのだ。 クラフトミートを用いた職人こだわりのハンバーガーを、クラフトコーラで楽しむ「クラフトマクドナルド」なんて冗談みたいな店が、いつの間にか始まっているかもしれないのだ。 (窪田順生)
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