なぜ、謎の「クラフト〇〇」が増えているのか 大企業が次々に参入する理由
意外な食品にも広がるクラフトブーム
例えば「クラフト餃子」である。 餃子好きの間では有名だが、2022年から「クラフト餃子フェス」という全国各地の人気餃子店が集結する新たなフードフェスが行われている。直近では10月9日から16日まで「さいたま新都心けやきひろば」で開催され大盛況だった。 クラフト餃子フェスを主催するLAF Entertainment(東京都港区)によれば、「クラフト餃子」とは、餃子の食材選びや製造過程において、全国の餃子職人が皮、餡、タレなど、一つ一つにこだわり抜いて完成させた餃子のことだという。 いや、もちろん難癖をつける気などさらさらない。フェスの性格を示した素晴らしいネーミングだと思うし、誰かが迷惑するものでもないのでこの名称をどんどん広めていただきたいと思う。しかし、その半面で「餃子ってだいたいの店は食材や製法にこだわってつくるよなあ」と思ってしまう自分もいるのだ。 これが「アリ」ならば、クラフトカレー、クラフトラーメンなどなんでもいけてしまう。と思ったら案の定、調べてみたら既にそのようなことを提唱している店、専門家がいらっしゃる。しかも、大企業も便乗済みで、エスビー食品(東京都中央区)は2024年8月、スパイス専門家監修のもと「S&B CRAFT CURRY 中辛」という新商品を発売している。 そう、もはや「クラフト」というのは好む好まざるとに関係なく、人間が口に入れるあらゆるものに適用される万能ワードになっていたのである。それがうかがえるのが飲料や料理だけではなく、「食材」であるはずの「肉」「魚」「牛乳」にまでその流れが及んでいるということだ。
「クラフトミート」と呼ばれる熟成肉も
まず、肉好きの人たちの間では「クラフトミート」という言葉が広まっている。よく言われるように肉は魚と違って、新鮮だからいいというものではなく、手間暇かけて「熟成」させたものがうまい。その職人の技を用いた熟成肉のことを「クラフトミート」と呼ぶのだ。 全国にそのような熟成肉を扱う精肉店や飲食店が増えているが、中でも有名なのが東京・赤羽にある「CRAFT MEAT&LAB」だ。肉を乾かすことが趣味というオーナーが日々、うまい熟成肉を探求する文字通り「研究所」だ。ECサイトには『1頭買いした牛・豚に「菌による成熟・水分・温度・酸化コントロール」を注いだ“クラフトミート”を生産している』とある。 「クラフトミート」があるのなら当然、「クラフトフィッシュ」もある。陸上養殖の産業化を目指している「さかなファーム」(東京都新宿区)は2020年9月、養殖魚の魅力を伝えるマーケットプレイス「CRAFT FISH」をオープンした。これをブランド名にして陸上・海上問わず、さまざまな養殖水産品を販売しているのだ。 よく言われるように、日本の養殖技術は非常に高い。近畿大学がクロマグロの完全養殖に成功して世界で注目を集めたように、いずれ来る世界的なタンパク質不足の解決策の一つになるとも期待されている。そんな職人的技術を「クラフト」と銘打つのは、当然と言えば当然かもしれない。 また、あまり「職人のこだわり」というイメージが直結しない「牛乳」の世界にも「クラフトミルク」という言葉が登場している。それが2024年6月、東京・吉祥寺に誕生した乳業メーカー「武蔵野デーリー」である。 100年続く牛乳屋が立ち上げたメーカーで、「フリーバーン」(牛が自由に歩き回ることができる牛舎)など、牛をのびのび放し飼いにするなど、こだわりの飼育をしている牧場の生乳だけを用いた牛乳、つまりは「クラフトミルク」を製造販売するという。 このようにありとあらゆる食品、そして原料にまで「クラフト」をうたい始めている現状に対して「どうせ一過性のブームでしょ」と冷ややかに見る人もいらっしゃるかもしれない。 ただ、筆者は意外とこの流れは、分野によっては定着していつの間にやら「定番」になり変わっている可能性も大いにあると思っている。