レスリング栄氏のパワハラ謝罪会見に残った疑念と不透明な再発防止策
女子レスリングの五輪4連覇、伊調馨と、その指導をしていた田南部力コーチへのパワハラ認定を内閣府から受けた栄和人・元強化本部長のコメント発表の会見が14日、レスリング明治杯全日本選抜選手権の会場である都内の駒沢体育館で行われた。内閣府が栄氏のパワハラを認定したのが4月27日。初めてのメディア対応が、なぜ大会第一日目の朝なのか? 6月13日の夕方、翌14日の試合前にコメント発表会見を行うというリリースを受け取って以降、ずっと、その疑問を解消してくれる情報はなかった。そして、会見が終わり、大会一日目が終わっても、それは謎のままだった。 9時20分、関係者以外の立ち入りを禁じた通路からウォーミングアップ場に姿を現した栄氏は「皆様方、急な記者会見になりましたこと、申し訳ありませんでした。まず、伊調選手、田南部コーチに深くお詫びしたいと思います」と述べて頭を下げた。 そして間違いがあると申し訳ないからと断り、用意した文書を読み上げた。緊張でかすかに震える声で読み上げたその文面で、今回のパワハラの被害者である伊調選手と田南部コーチ、協会関係者、関係省庁、これまでレスリングを応援してくださった国民の皆さんにお詫びし、告発状の発覚から今まで公の場に姿を現さなかった理由を述べ、「これからも一指導者として精進する」と決意表明した。そして再び、伊調と田南部コーチに対して「申し訳ありませんでした」と謝って締めくくった。 だが、その後の質疑応答によれば栄氏はまだ、伊調にも田南部コーチにも直接の謝罪をしていない。そして自らがパワハラそのものを振り返り、学習し、克服するために何をするかの具体的な計画は「協会の改善策プログラムに参加する」のみだ。 この日本レスリング協会が実施するとしている「改善策プログラム」については、内容が明らかになっておらず、いつから、誰を対象に、どんな内容を実施するのかが、まだ白紙だという話も聞く。進捗があったとは言いがたい状態なのに、会見のリリースから約半日後という慌ただしいスケジュールで会見は行われた。 これまで、栄氏は週刊誌報道の直後に至学館大学での囲み取材に応えただけで、公の場に姿を見せなかった。その後、FAXでコメントを発表したことが一度きり。レスリング協会に常務理事辞任の意を伝えたときには辞表のみでコメントはなかった。2週間前、レスリング協会公式ホームページに近況を知らせる記事が半日だけ掲載され削除されたが、その記事は栄氏を絶賛する内容で、パワハラについてどのように考えているのか、悔いているのか反論があるのか、の記述もなく、沈黙が続いていた。