レスリング栄氏のパワハラ謝罪会見に残った疑念と不透明な再発防止策
パワハラが表面化したことをきっかけに、レスリング界の美点として知られた部分も影を潜めつつある。1964年の東京五輪の前から、日本レスリング協会は「マスコミの取材はいつでも歓迎」「できる限り取材に協力する」という基本姿勢で知られてきた。ところが、今回の明治杯では奇妙な制限がいくつも発生した。 まず、栄氏の会見は、1週間前に締め切られていた明治杯へ取材申請したメディアにしか取材が許可されなかった。女子レスリングパワハラ問題というのは、すでにスポーツ分野の枠を超えた関心事だ。にもかかわらず、大会の取材を目的に申請したメディア向けにしか場所をもうけないのは不自然だろう。 そして、至学館大学やそのOB選手への取材は通常より著しく制限された。 これまで、レスリングの日本代表を決める大会では、優勝選手の取材をまずテレビ向けに行い、その後、新聞通信社などのペン記者の囲み取材となり、撮影のないリラックスした雰囲気のなか、優勝までの具体的な苦労話など、詳細に話を聞くのが通例だった。ところが、至学館大学関係の選手については、この後半の囲み取材が省かれた。他所属の選手については、いつも通りの囲み取材が可能だったため戸惑った記者も多かった。急なレギュレーションの変更に驚き、なぜ事前告知がないのかを確認すると、追加で知らせたという。 どうやら「取材上のご注意(追加)」として配布された用紙にあった「至学館選手への取材は、至学館関係者の許可を求めてください」がそれにあたると言いたいらしい。 この文言だけでは、とても、優勝者への囲み取材を省いて切り上げる、という意味にはとれないので苦笑するしかないが、大会取材の場では、彼らが「権力をもつ側」だ。栄氏の会見の影響もあって優勝選手については、すぐに記事化する可能性は低いため、後日、別の機会に話を聞こうと割り切った取材者も多かった。 3月中旬、群馬県高崎市で行われた女子ワールドカップでは、選手たちはどこの所属でも堂々と取材に応えていた。リオ五輪金メダリストの川井梨紗子や、栄氏の娘でもある栄希和には、パワハラ告発にまつわる質問も投げかけられたが、彼女たちなりの言葉を尽くして伝えてくれた。その選手の潔い立ち居振る舞いを思い起こすと、過度な取材制限は、一体誰のためだろうと考えさせられる。 (文責・横森綾/フリーライター)