J内定逸材がプロで「大きなミス」 悔やんだ“不甲斐なさ”、送り出した大学へ「申し訳ない」【コラム】
成就させるべき目標をリスト化「理想と現実がようやく近づいている」
東洋大学在学中の肩書きで、正式加入前に歴史的な一戦で120分フル出場した稲村は「プロサッカー選手は幸せな職業だと、改めて感じました」としながら、自らへ厳しい矢印を向けるのを忘れなかった。 「個人としては、もっといいプレーができたという思いがあります。自分のなかでは、入団前だからどうこう、とは思っていません。22歳という年齢はサッカー界では決して若くはないし、こういう舞台を経験して当たり前くらいじゃないとダメだと思ってきたので。その意味でも自分のところでもうちょっと時間を作るというか、自分がボールを保持して、相手のプレッシャーを引き出してから空いたところをパスで刺すとか、自分が1枚を剥がせる場面が何回もあったので、そこに関してはまだまだ課題だと思っています」 FC東京U-15深川から群馬・前橋育英高を経て、東洋大に入学したのが2021年。身長182センチ体重72キロのサイズと、サッカー界では希少価値の高い左利きという武器を見込まれ、高校時代にアタッカーからCBへコンバートされていた稲村は、大学4年間で成就させるべき目標を自分のなかでリスト化している。 「3年でプロ入りを内定させて、4年で(特別指定で)活躍する目標がありました。根拠のない自信とともに描いていた理想の自分と、現実の自分とがようやく近づいている感覚があります」 ルヴァンカップでの活躍を介して、目標の一端を鮮やかに達成させた稲村は、できるだけ早い段階での日本代表入りもリストのなかに加えていた。プロの世界に対する思いは、決勝を経てさらに強くなった。 「悔しいと思った分だけ強くなれるし、負けたからこそ得られるものもある。決勝が終わったあともすごく悔しい思いを募らせているし、この悔しさを自分の成長に対するベクトルに変えていきたい。左利きという点で評価されがちですけど、ディフェンダーとしてしっかり評価される選手になりたい。日々の積み重ねがすべてだと思っているし、だからこそ目指していく場所をより高く設定していきたい」 リーグ戦に目を移せば、新潟は残り3試合で16位とJ1残留争いの渦中にいる。残り2試合となった関東大学リーグとの兼ね合いに、稲村は「これまでと同じく、大学とクラブとが話し合う形です」と語るにとどめた。リーグ戦でも新潟の力になってほしい、とファン・サポーターに思わせるパフォーマンスと、両手からあふれるほどの課題を収穫として抱えながら、ホープが主軸として臨んできたルヴァンカップが幕を閉じた。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)