J内定逸材がプロで「大きなミス」 悔やんだ“不甲斐なさ”、送り出した大学へ「申し訳ない」【コラム】
歴代最多の6万2517人集結、大舞台でのプレーは「本当に幸せでした」
いつものように、キックオフ直前にFW小野裕二に背中を叩いてもらう。目の前の試合に集中するための“儀式”を済ませた稲村は、歴代最多の6万2517人の大観衆が見つめる大一番へ臨んだ。 「身体が震えるほどの大歓声のなかでプレーできたのは本当に幸せでした。ただ、いざ試合が始まればピッチ以外は見ないタイプなので、プレー自体には集中して試合に入れました」 こう振り返った稲村は左CBとして、ゴールキーパーから短いパスをテンポよくつなぎ、敵陣に迫っていく新潟独自のスタイルに、利き足の左足を駆使して積極的に関わっている。大舞台に物怖じしたようにも見えなかったが、それでも試合後には「大きなミスをしてしまった」と悔やんでいる。 稲村が振り返ったのは前半42分。名古屋のFW永井謙佑が、同31分に続いて決めた2点目だった。 敵陣の中央でボールを受けたMF椎橋慧也が、浮き球のパスをペナルティーエリア内の右へ送る。ターゲットは味方を追い越して侵入していったMF稲垣祥。稲村が競り合いではなくカバーリングを選択して後退した状況で、ボールは制空権を有した稲垣からMF和泉竜司につながれ、最後は永井がゴールネットを揺らした。 ゴール前で仰向けになり、降り続ける雨に打たれた稲村は何を思っていたのか。 「あの場面では自分が先にパスに触り、クリアしていれば失点は防げていた。見ている方々にとっては面白いゲームだったのかな、と思いますけど、自分のあのプレーには不甲斐なさしか感じていません」 試合は後半に入って新潟が1点を返し、アディショナルタイムに入った5分には、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入を経て獲得したPKをFW小見洋太が決める。突入した延長戦でも1ゴールずつをゲット。そして、天国と地獄とを分け隔てるPK戦にもつれ込んだ時点で、稲村の役割はほとんど終わっていた。 フィールドプレイヤーで最後の10番目と、まず回ってこないキッカーだった稲村が舞台裏を明かす。 「PKに対する苦手意識は特にないですけど、両足のふくらはぎから下の部分がほとんどつっていて、蹴るのはちょっと、という状態だったので、正直に伝えて変えてもらいました」 PK戦は5人目で終わった。守護神ランゲラックを含めて5人全員が決めた名古屋に対して、2人目を担うもゴールの右に外し、表彰式になっても号泣し続けたFW長倉幹樹の姿が新潟の悔しさを象徴していた。