【同僚議員にふぐを奢り…】「頭も下げ、変わった」石破茂元幹事長を変貌させた「最後の戦い」への覚悟
候補者の抱える「矛盾」
自民党総裁選の立候補者は矛盾を抱えている。 派閥パーティーの裏金問題を蒸し返し、厳しい処分を科すこと明言すれば、国民の支持は得られよう。だが、その一方で処分を受けた旧安倍派や旧二階派の議員らの不評を買い、国会議員票を得ることが難しくなる。国民か永田町か、理念か実利か、どちらを向くのが得策なのか、各候補は頭を悩ましている。 満面の笑みで…ついに本格始動した、自民党総裁選・カギを握る「超重要人物」 「裏金問題で処分を受けた議員は39名で、そのうち旧安倍派に所属していた議員は36名。不記載額が500万以下で処分を免れたが、不記載があったと認定されている議員は82名で、自民党国会議員の約2割もいる。 総裁選の1回目の投票は国会議員票と地方票(全国の党員から集計した票。ドント方式で各候補に配分される)が382票ずつで同数だが、1回目で過半数を取れなければ、1位と2位の候補による決選投票となる。決選投票では地方票は47に目減りし、国会議員の票はそのまま。つまり国会議員は敵に回したくない」(全国紙政治部記者) 小林鷹之前経済安保担当相(49)や高市早苗経済安保担当相(63)は裏金議員の再処分について「党が決めたことをひっくり返すことは、ガバナンスの面で正しくない」とし、国民人気より議員からの支持を選んだ。小泉進次郎元環境相(43)は「厳しい態度で臨む」と、ふわっとした言葉で明言を避けた。 そんな中、石破茂元幹事長(67)は多少のブレはありつつも、歯に衣着せぬ発言を続け、世間の支持を集めている。 ◆記者との「対峙」で見えた覚悟 「国民はまだ納得していない。説明責任を果たしていかなければならない」 9月10日、議員会館内で行われた政策発表の会見場でそう述べると、議員になる前に渡辺美智雄元副総理からかけられたという言葉を披瀝した。 「先生と呼ばれたい、勲章が欲しい、お金が欲しいと思って議員になるなら今すぐ帰れ。政治家は勇気と真心と真実をもって語られなければならない、と教わった。その思いを持って自由民主党を改革していく。ルールは守る。どうせわかりやしない、というのはあってはならない」 政策発表の会見では、これまでの候補の中で最長となる110分間、記者と対峙した。 進次郎氏のような質問者を選別するような会見ではなかった。進次郎氏は付箋をびっしりと貼った電話帳ほどの原稿に何度も目を落とし、曖昧な発言に終始したが、石破氏は用意した原稿に目線を落とすことなく、「国民と誠実に向き合う政治としたい」「政党法を制定し、党のガバナンスを向上したい」と熱をこめて話した。 「裏金問題で曖昧な対応をすれば世論の支持を失いかねない。党内の国会議員の人気を得ようにも限界がある。石破さんは国民に近い感覚を持つ党員票を得るため、賭けに出た。1位か2位に付け、小泉氏との決選投票に挑むつもりでしょう。小泉氏のバックには菅義偉元首相(75)が控えている。“菅に仕切られたくない”党内の重鎮たちがどう動くか。その筆頭格である麻生太郎副総裁(83)は石破氏を毛嫌いしているが、福岡県内で覇権を争っている武田良太元総務相(56)が進次郎氏の応援にまわっている。麻生氏が石破氏を選ぶ可能性もある」(政治ジャーナリストの角谷浩一氏) 石破氏は森友学園や加計学園問題で安倍晋三元首相の責任を激しく追及し、裏金問題では自民党の金権体質を批判してきた。だが、その姿勢は「後ろから鉄砲を撃つ」「上から目線の評論家気取り」と自民党内で反感を買っていた。 ◆「面倒見」という弱点 それでも、石破氏は「次の首相にふさわしい政治家」を問う世論調査で常に上位を維持。一時は自派閥の水月会を立ち上げ、その領袖となっている。安倍政権下で干され続け、一人欠け二人欠けして、岸田文雄首相(67)の派閥解散宣言前に瓦解してグループ化した水月会の元メンバーがため息をつく。 「政策立案能力、深い教養、風格、どれをとっても総理総裁にふさわしい人材であることは確か。ただ、過去の総裁選では、支援を得るために必死になって電話をかけたのは周囲の議員ばかり。本人は電話をしようともしない。会合をセッティングしても、頭を下げて支援を求めることはない。『石破さんは(総裁選に)出るんだよね?』と尋ねられたものです」 石破氏の経歴も、党内では批判の対象となっている。1993年、宮沢内閣の不信任案に与党議員ながら賛成して離党。紆余曲折を経て1997年3月に復党したのだが、あれから四半世紀以上経ったいまも「出戻り」と批判されている。二階俊博元幹事長(85)も同じ時期に自民党を離れているが、表立って批判されることはない。二人を分けたものは何か。 「面倒見に尽きる」と、さる選挙プランナーは匿名を条件に口を開いた。 「石破さんと会食すると、読書家で話題も豊富。分析も鋭くて大変勉強になる。ただ、面倒見が悪くて、お会計になると『今日は割り勘で』と告げられる。自分より大物や資金力のある人がいれば支払いはお任せで、手土産のひとつも持参しない。水月会トップのころ、新人議員との会食も割り勘にして、その議員は安倍派に行ってしまった。 二階さんは会合の支払いはもちろん、和歌山の梅など、お土産も用意してくれる。菅元首相なら、秋田の稲庭うどんや横浜の甘納豆。物をくれるから、奢ってくれるから応援する、というわけではなく、自民党の派閥の領袖クラスは霞が関の官僚や番記者、陳情客にも『おい、飯食ったか』『うまい○○がちょうど手に入った。持っていけ』と挨拶代わりに声をかけるもの。相手を気遣う、心配りの能力の差がそのまま総裁選での結果にむすびついている」 石破氏は組織の中でうまく立ち回ることが苦手なのかもしれない。ただ、酒席の付き合いは悪くとも、応援弁士の依頼があれば時間を見つけて駆けつける。 7月の都知事選と同時期に都議会議員補欠選挙があり、石破氏は汗だくになって板橋区・大山の商店街で応援演説をしていた。政治家としての生き方の違いかもしれないが、石破氏なりの方法で仲間作りに励んでいるのだろう。 ◆「集大成」に向け…… それでも総裁選にエントリーするには推薦人20名が必要で、その先を目指すのであれば一人でも多くの議員票は必要だ。 「潤沢な資金がある議員がカネやポストで派閥を維持し、総理総裁を目指す。それがこれまでの自民党政治の王道だった。カネ集めをせず、仲間にばらまくことを一切してこなかった石破氏はいまも不利と言わざるを得ない」(前出の記者) だが、「ケチ」「ボッチ」と揶揄されてきた石破氏にある変化が起こっている。8月下旬、石破氏が都内のふぐ料理屋で衛藤征士郎(83・元衆院副議長)氏にご馳走した、というのだ。 衛藤氏は、石破氏の総裁選での推薦人集めを担ったとされる旧安倍派の重鎮。衛藤氏をよく知る政治学者の天川由記子氏が打ち明ける。 「石破さんと会食をすると、奢ることはあっても奢られたことはない。それでも、話が楽しくて勉強にもなるから、衛藤さんは代金を支払っていた。石破さんが頭を下げなければならない状況での会食であっても、彼は食事代を支払おうとはしなかったといいます。そんな石破さんがお酌をするようになり、中座してトイレでも行ったのかと思ったら会計を済ましていた。衛藤さんが会計をしようとすると、『石破先生からいただいています』と言われ、驚愕したそうです。これまで、『頭を下げろ』『仲間と飯を食って奢れ』と諭してもできなかった。ふぐを食べながら、衛藤さんは『これがラストチャンスだから、借金してでも議員と会食し、頭を下げろ』と言い含めると、石破さんは神妙な表情で『わかりました』と首肯したそうです。総裁選の前に、彼は生まれ変わりつつある」 衛藤氏も石破氏の人間的な成長を心から喜んでいた。 「2時間近くも原稿を見ず、よく自分の言葉で記者とやりとりできたものだ。目線が原稿を行ったり来たりする候補(進次郎氏)とは大違い。議員たちはそんな彼の姿をちゃんと見ているよ。いま、40人近い議員が石破さんを推しているが、政策討論会をやればやるほど増えていくだろう」 徳俵に足をかけた石破氏が、大一番を前に変わろうとしている。今回の挑戦は議員生活38年の「集大成」となるだろうか。 取材・文:岩崎大輔
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