コンビニの中華まんケースは熱帯魚の水槽だった!? 中華まんケースの強化ガラスシェア100%のイケダガラス工場を見学した
この炉は、ガラスを高温で加熱して曲げ加工を施し、すぐに急冷することで、衝撃に強い強化ガラスを作り上げる装置だ。
機械の入り口では一枚の平坦なガラス板だったものが、出口から出てくるときには、コンビニのレジ横で見慣れた「コ」の字型に加工されていた。 確かにコンビニのレジ横で見覚えのある形のガラスが出てくると、なぜだか少し感動するものだ。
冷却済みとはいえ、出てきた強化ガラスの上の空気がゆらゆらと揺らいでいるのが見え、まだ相当な高温なのだということがわかった。
工場のスタッフがチェックしながら台の上に一つ一つ並べ、さらに冷やしていた。
この曲げガラスは少しのサイズ違いで二種が作られ、大と小を合体させたペアガラスに仕立てられる。それが、この工場から出荷される中華まんケース用強化ガラスの完成品だ。
■熱帯魚の水槽から中華まんケースへ 見学中に耳にした興味深いエピソードがある。 現在の中華まんケースは、実は熱帯魚の水槽用強化ガラスを転用したものであるというのだ。 1980年代、日本で熱帯魚ブームが巻き起こり、多くの家庭や企業で水槽が使用されていた。しかし、バブル崩壊を経て熱帯魚の飼育が下火になると、水槽用ガラスの需要は急減。 イケダガラスはこの危機に際し、水槽用に生産していた曲げ強化ガラスを中華まんケースへ転用するというアイデアを打ち出した。 それまでのコンビニで使われていた中華まんケースは、平面ガラスを3枚組み合わせる方式が主流だったが、「コ」の字型の曲げガラスを採用することで角のつなぎ目が不要になり、商品の視認性が向上した。この転用策が功を奏し、同社は現在のほぼ100%のシェアを獲得するに至ったのである。 世の中には、危機をチャンスに変えた成功物語が数多く存在する。次にコンビニを訪れる際には、中華まんのケースを眺めながら「これがかつて熱帯魚の水槽だったのか」と思いを馳せてみてはいかがだろうか。 ■ 佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
佐藤誠二朗