「『ガチなやつがいる』と鞘師里保に注目していた」映画『十一人の賊軍』白石和彌監督、作品とヒロインに込めた思いを語る
山田孝之、仲野太賀W主演の映画『十一人の賊軍』が11月1日(金)より公開される。11人の罪人賊軍が藩の命令により決死の任に就く姿を描いた本作。今回は、白石和彌監督にインタビューを敢行。『仁義なき戦い』シリーズを手掛ける名脚本家・笠原和夫が残したプロットを元に制作された背景、作品への思いを伺った。(取材・文:タナカシカ) 【写真】鞘師里保の演技が凄まじい…劇中カットはこちら。映画『十一人の賊軍』劇中カット一覧
「試しにやってみよう」から始まった挑戦
―――プレス資料によると、白石監督が本作を着想したのは、笠原和夫さんのインタビュー本「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫」を読んだことがきっかけとのことでした。昭和の劇を初めて読んだのはいつでしたか? 「昭和の劇を読んだのは、確か2007年か2008年頃だったと思います。もしかしたらもう少し前かもしれませんが、だいたい2000年代の中頃ですね。その時は特に強く惹かれることはなかったのですが、『ああ、こういう作品を笠原さんが書いてたんだな』といった印象でした」 ―――映画として制作しようと考え始めたのは、いつ頃からでしたか? 「プロットはなかったんです。確か2010年代のどこかで、何かを調べている時にネットで偶然見つけたんです。AmazonのKindleで、この『十一人の賊軍』のプロットが販売されているのを知って、すぐに購入して読んだんですよ。でもそれはどんな話なんだろうって気になっただけでした」 ―――映画に繋げようと考えて読まれた訳ではなかったんですね。 「そうですね。規模も大きいので」 ―――そこから映画の制作が決まるまで、どのような流れがあったのでしょうか? 「これまでも東映さんとの仕事を通して、色々なお仕事をさせていただきました。次に何をしようかという話になった時に、『試しにやってみよう』という流れになりました。このプロジェクトは予算もかかるだろうし、規模も大きくなるだろうと思いましたが、挑戦する価値はあると感じました」
元のプロットから変更されたラストシーン
―――当時は一度ボツになった作品とのことですが、今の時代にこの「集団抗争時代劇」を制作することは、監督にとってどのような意味があったのでしょうか? 「集団抗争時代劇を作りたいと思った理由は、シンプルに僕自身が好きだからです。しかし、やはり戦争を描くというテーマも大きいですね。昔、笠原さんのプロットでは11人全員が戦って散っていく話でした。当時は高度経済成長期の中で、権力に対して華々しく戦い、散っていくこと自体が意味を持っていたのかもしれません。 でも今は、社会がもっと複雑化しています。さまざまな立場や背景を持つ人々がいて、それぞれが自分なりの正義を抱えています。そんな複雑さを反映した映画にすることで、今の時代に作る意義がより強くなるのではないかと考えました。戦争を通して、そうしたテーマを描きたいと思ったんです」 ―――時代劇の利点として、「弱い者が命を使い捨てにされる不条理さを描ける」と、プレス資料にありましたが、このテーマを描く上で、監督にとって最も重要だったことは何でしょうか? 「現在も戦争している国は多くありますよね。たとえば、ウクライナ戦争もそうですし、罪人を使うといった構造はこの作品と同じです。だから、こうした状況でその立場に立ったら、誰でも必要に駆られれば同じことをしてしまう可能性があると思うんです。国が悪いとか、特定の誰かが悪いという問題よりは、そういう人間の行動を描くことが必要だと感じました。 時代劇は現代とは違い、民主主義でもなければ保険制度もない中で、不条理や命の軽さが描かれます。今よりも命を失うハードルが低い世界観ですから、その点が時代劇として僕なんかが作る映画との相性の良さがあるのだと思います」 ―――元々のプロットと本作では、終盤の展開に違いはあるのでしょうか? 「具体的なシーンは伏せますが、新たに作ったシーンはあります」 ―――終盤の展開を変更したことによって、どのようなメッセージを込められたのでしょうか? 「日本もいつ再び不穏な時代になるかは分かりません。だからこそ、どんな状況でも生きることの重要性を伝えたいと思いました。第二次世界大戦中、日本では『死ぬまで戦え』という教育が当たり前で、従わない者は非国民扱いでした。本作では、罪人を使い捨ての駒にして、あの手この手で国を守ろうとするけど、死んだところで何もいいことなんてない。『そういう時代だからこそ、まずは生きることが大事』というメッセージを持たせたかったんです」