「『ガチなやつがいる』と鞘師里保に注目していた」映画『十一人の賊軍』白石和彌監督、作品とヒロインに込めた思いを語る
3度目のタッグとなった阿部サダヲ
―――本作では、芸人の千原せいじさんとナダルさん、一瞬ですがゆりやんレトリィバァさんが出演されています。白石監督のこれまでの作品では『日本で一番悪い奴ら』(2016)にデニスの植野行雄さん、『ひとよ』(2019)では、千鳥の大悟さんなど、多くの芸人さんが出演されています。 その理由についてお伺いできますか? 元々お笑い芸人さんがお好きなのでしょうか? 「お笑いも大好きですが、芸人さんが芝居するのが好きなんですよ。もちろん、芝居の経験が豊富な芸人さんもいますけど、普段は映画やドラマの芝居のお仕事って頻繁に来るわけではないじゃないですか。だから『芝居の中でインパクトを残したい』っていう感情が沸き立っているのが好きなんですよ。『かましていいですか!?』って普通に聞いてくれますし(笑)そんなこと普通俳優は聞かないですからね(笑)」 ―――本作で出演されたナダルさんは官軍・先遣隊隊長、世良荘一郎(安藤ヒロキオ)の腹心として重要なキャラクターを務めました。ナダルさんとはお芝居に関してどのように要望を伝えたのか気になります。 「最後まで『ナダルさんが出てたって誰にも気づかないぐらい、ガチな芝居がいい』とは言いました。でもそれが成立したかは怪しいですけどね(笑)」 ―――役者さんと芸人さんの演出方法に違いはあるのでしょうか? 「基本的にはそんなにありませんが、気持ちを盛り上げるという意味では、アプローチが少し違う部分もあるかもしれません。でも、Netflixの『極悪女王』でゆりやんと一緒にやっていた時は、“芸人”って意識はほとんどなかったですね。 撮影中は特にそうでしたし、存在感がありました」 ―――溝口を演じた阿部サダヲさんとは3度目のタッグとなっています。個人的に阿部さんはコメディ寄りの作品に出演しているイメージがあったのですが、白石監督の作品では怖い、嫌悪感のある役どころにキャスティングされています。それには何か理由があるのでしょうか? 「私には怖い人に見えているんでしょうね(笑)」 ――それは…どんなタイミングで思われたのでしょうか? 「『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)では、人殺しの役ではなかったですが、あるシーンで阿部さん演じる陣治が、十和子(蒼井優)見つめる描写があるんです。この演出について、阿部さんに『このシーン、どのような目で見たらいいですか?』と聞かれたので、『5分前に人を殺してきた目で見てくれ』と答えてみたんです(笑)。そしたら『あ、この人本当に…』っていう目をしたんです! それからですね」 ―――『彼女がその名を知らない鳥たち』の陣治の表情は、本当に狂気を感じましたが、そのような演出があったとは…。とても貴重なお話です。本作で3回目のタッグとなりましたが、信頼感や安心感などはいかがでしたか? 「阿部さんには信頼感しかないですよ! 阿部さんと何度かご飯にも行ったりするんですが、一緒に街を歩いていても阿部さんって気づく人いないんですよ。『死刑にいたる病』は初日に満員の映画館で観ていたらしいですからね。そういう感じ含めて恐ろしいんですが(笑)大好きな俳優です。また阿部さんと仕事したいなといつも考えてますよ」 ―――今のお話を聞いて、阿部さんとは本当に仲が良いことが伝わってきました(笑)信頼関係があるからこそ引き出せるお芝居もありそうですね。 (取材・文:タナカシカ)
タナカシカ