「もう一度小さいところから」も面白い――講談師・神田伯山が「抜け殻」だった自粛期間に考えたこと【#コロナとどう暮らす】
講談界の風雲児、六代目神田伯山(37)。今年2月、真打昇進と同時に伯山を襲名し、神田松之丞から改めた。公演のチケットはすぐに完売、ラジオやテレビでもファンを増やし、飛ぶ鳥を落とす勢いで駆け上がってきた。そんななか、新型コロナウイルスの影響で、真打昇進襲名披露興行は3月半ばから中止に。しかし高座のない日々にもめげることなく、YouTubeチャンネルでコンテンツを続々配信。ギャラクシー賞も受賞した。「コロナ自粛」の期間に何を考え、未来をどう見据えているのか。(取材・文:生島淳/Yahoo!ニュース 特集編集部、文中敬称略)
講談をやらないとすべてが虚しいだけ
今年2月11日に新宿末廣亭を皮切りに始まった真打昇進襲名披露興行は、3月10日の池袋演芸場を最後に中止が決まった。4月は高座もなし。その間、伯山はどんな生活を送っていたのだろうか。 「最初の1カ月はあくまで私個人の生活では楽しかったですよ。何もしないなんて学生以来ですから。世界が今まで通りだったら、地方にお披露目に回って多忙もいいところでしょうけど、家にこもってリセットする時間になりました。去年は年間で700席近くやっていましたから、働きすぎていたんですよ。アウトプットが続いて、インプットの時間が足りない状態が4、5年続いてましたかね。でも、さすがに1カ月を超えたあたりから、『これ、高座がないとキツいな』と思うようになりました。自粛期間中、ラジオもリモートで出演したりしてたんですが、外にも出ない、人にも会わないとなると、新鮮なことがなく、どうもうまくいかない。講談やっているからこそ、ラジオやテレビで喋ることに意味がありますし、講談というバックボーンを失った時の抜け殻感がありましたね。講談をやらないとすべてが虚しいだけでした」
自分の人生における講談の重要性に改めて気付いた伯山。自粛生活が続くなか、家族と向き合う時間も必然的に増えた。 「カミさんはとにかくストイックなんですよ。“月曜断食”はしてるし、筋トレはするし。断食したらイライラしそうだけど、淡々としてて、『家にガンジーがいる……』と思いましたよ。すべてのものが愛おしく見えてくるらしく、庭のレモンの木の葉っぱに青虫が3匹止まっているのを見ては、『かわいい。蝶になるのが楽しみ』とか言ってて、もう、メンタル面でもガンジーになってるわけです。僕もテキトーに『本当だね』とか話を合わせてたら、ある日、庭に鳥の糞が落ちていた。鳥がその青虫を食べてしまうという最悪の結末です。『鳥、空気読めよ』と思いましたね(笑)」 (伯山注:うち1匹は無事にさなぎになり、先日蝶になりました)