「もう一度小さいところから」も面白い――講談師・神田伯山が「抜け殻」だった自粛期間に考えたこと【#コロナとどう暮らす】
YouTubeで「連続物」が花開いた
「カミさん」は女将さんとして伯山のマネジメントも担当する。長らく演芸のプロデュースを手掛け、今年2月、伯山の真打昇進襲名披露興行に合わせて、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」を立ち上げた。 2月9日に行われた披露パーティーの様子を皮切りに、2月11日から新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場と続いた29日間の真打昇進襲名披露興行の様子を、翌日にはダイジェストで配信し続けた。伯山の高座のシーンは少しだけで、寄席の楽屋に出入りする芸人たち、春風亭昇太、三遊亭円楽、笑福亭鶴瓶、立川志らくといった人気者が、テレビでは見せない素顔を見せている。
すると、発足3カ月ほどで、チャンネル登録者数は12万9千人、ユニーク視聴者数は126万人に達する。放送界の栄誉あるギャラクシー賞テレビ部門のフロンティア賞を受賞。YouTubeでは初めて受賞した。 「実は僕個人がいただいた賞ではなく、神田伯山ティービィーを立ち上げたカミさんの会社が受賞したことになってまして。だから、カミさんからは『あなたもいつか受賞できるといいわね』と言われてます。私は入っていないんだと気付きました(笑)。披露興行の最中は、寄席の楽屋に集う師匠方の人間模様を伝えられたのがよかったですね。ご覧いただいた方は、『こんな世界があるのか』と驚かれたんじゃないでしょうか。結構、偏っている人も多いんですが(笑)、居場所がある。寄席の楽屋はユートピアなんですよ。令和に生きる芸人の貴重なアーカイブにもなった気がしますし、満員札止めになった客席の熱気も含め、貴重な記録になったと思います」
3月11日から国立演芸場で予定されていたお披露目は中止となったが、伯山は守勢に回らない。 世の中が自粛モードに入りつつあった3月13日からは、今年正月、松之丞時代に読んだ『畔倉重四郎』の全十九話を、毎日一話ずつ神田伯山ティービィーで配信。しかも4Kで撮影するというクオリティーの高さで、6月17日現在、畔倉の第一話は68万回再生を誇る。昔の講釈場で行われていた「一日一話」を読むという連続物の講談の形が現代に甦ったのである。 「1月に読んだ畔倉は、基本的に5日間の通し券しか販売していないので、東京と名古屋を合わせて800人ほどのお客様しか聞いてないんです。それと比べると、68万人っていったら、とんでもない数字ですよ。もともと、講談の連続物というのは、現代でいえばNHKの朝ドラの原型であり、マンガの連載物と同じような存在だったわけです。続き物の楽しみですよね。ところが、講談界自体が『連続物は時代遅れだ』と敬遠してしまった。現代社会では、5日間劇場に通い続けるのは困難ですからね。わずかに、私の師匠である神田松鯉や他の先生方がなんとか連続物の命脈を保ち、その財産を私が受け継いで、YouTubeというジャンルが生まれたことで、再び花開いたと思います」