「もう一度小さいところから」も面白い――講談師・神田伯山が「抜け殻」だった自粛期間に考えたこと【#コロナとどう暮らす】
伯山は自分のことだけではなく、業界全体のことを考え、動いている。 「今は浅草演芸ホールでは寄席も300人中170人ほどのキャパでやっていますが、興行しているということが重要だと思います。ただし、楽屋も『新しい生活様式』から逃れられなくて、楽屋が“密”になるのを避けるために、出番の30分前に楽屋に入り、高座が終わればすぐに帰らないといけません。打ち上げもなしです。前座も当番制になり、毎日寄席に行くという修行も途絶えてしまいました。それでも、どんなに人数が少なくても、芸を維持する、システムを維持することが大切でしょう」 コロナ禍によって寄席が閉じ、お披露目の場を奪われた講談師がいた。神田陽子の弟子、神田桜子である。5月に二ツ目に昇進していたものの、高座に上がる機会を奪われていた。そこで、伯山は「オンライン釈場」の第1回を桜子のお披露目の場とした。桜子は、「兄さん、伯山先生のおかげで、二ツ目になって初めて袴をはき、高座に上がることができました」と涙ぐんだ。 長い自粛の間にも、あれこれと頭を働かせ、将来につながる動きを伯山は続けていたのだ。
「今の状況だからこそできることは何なのか、とても興味があります。コロナによる自粛が明けた後に、よりよいエンタメが提供できるように模索していきたいですね。そのためにも、他のエンタメがどうもがいているかを見たい。今、エンタメは面白いですよ。こんなこと、過去に例がないんですから。試行錯誤してお客様を絞ってやっているもの、あらゆるジャンルの現場に足を運んで見たいです。今回の自粛期間で一旦リセットできたので、今後はインプットしながら、程よいアウトプットをしていく。落ち着いた真打になれたらいいですね。自分の意思もあったはずなんですけど、向かうところが分からない電車に乗ってしまったような気もして、一呼吸してようやく、目的地がはっきり分かる電車に乗り換えた気分です」