「もう一度小さいところから」も面白い――講談師・神田伯山が「抜け殻」だった自粛期間に考えたこと【#コロナとどう暮らす】
伯山は、観客のYouTube体験が「アフターコロナ」の行動にも影響を与えるだろうと予測する。 「畔倉をYouTubeにアップしたことで、発見がありました。ラジオやテレビのお客さまを連続物に誘導するのは、若干ハードルが高かったんです。ところが、YouTubeならば字幕を入れたり、繰り返し見ていただけたりするので、ハードルが低くなり、すんなり連続物の世界に入っていただけた。それだけではなく、落語家の師匠方も『畔倉ってあんな話だったのか』と驚かれたようなんです。マスメディアから高座への直接ルートを敷くのは難しかったけれど、YouTubeというバイパスを挟むことで、講談へのアクセスが増え、より興味を持っていただけたと思います」
「もう一度小さいところから」も面白い
国内の感染状況を見ながら夫婦そろって復帰の準備を進め、高座復帰の第1弾は上野広小路亭での「オンライン釈場」になった。伯山が読んだのは『寛永宮本武蔵伝』の「狼退治」だった。 「気持ち悪いくらいに全部が鈍ってましたね。体重も増えてましたし、正座をしたら軽く痺れはあるし、張扇(はりおうぎ)を叩いても、しっくりこない。自粛期間中、傍目にはたっぷり稽古する時間が取れるんじゃないか、と思われるかもしれませんが、講談師というのは“実戦”がないと本当の意味での稽古はできないことに気付きました。でも、先生方と顔を合わせられたのはうれしかったですね。演芸の世界の大先輩方は、『人生長けりゃ、こういうこともあるんじゃねえの』とあまり動じてないし、師匠の松鯉にいたっては『芸人ってのはお金がなくても食える方法をみんな知ってますからね』とか言ってました。あれ、私は知らないなあ、どんな方法だろうと(笑)」
「時節柄、人殺しの話ではなくて、明るい話を求めるお客さまが多くなるのかな、とは想像してます。僕の人生を振り返れば、前座時代の最初の勉強会は8人から始まった。正確にいうと、うち2人は親戚、1人は友達、実質5人からスタートしたわけで。もう一度小さいところからというのも張りがあって面白い」 6月に入って、寄席、劇場も徐々に再開。「完全にお客様が戻るのは、ワクチンができる1、2年後でしょうか」と、演芸を取り巻く環境が一時的には変わらざるを得ないのは伯山も認めている。 「演芸界に限らず日本全体のムードが沈んでいるのは否定できないですよね。でも、新型コロナウイルスがなかったら『あったであろう世界』については考えないことにしています。こういう時こそ必要なのが、未来のビジョンであり、夢じゃないでしょうか。専用の講釈場をつくるのはまだ30年以上先になりそうですけど、数年後、数十年後の講談界はこうなってる! そうした花火を上げていくのが重要じゃないかと思います。何か、花火が見られると思えば、今我慢する時間にも価値が出てくるわけで」