利用者の8割が外国人なのに「英語が話せなくても大丈夫」面接官が言った納得の理由【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#33 ホテルのバー編 ◇ ◇ ◇ 「ホテルのバーで働きませんか?」という求人を見つけた。広告主は都内の一等地にあるシティーホテル。さっそく応募したところ「面接にどうぞ」との案内をもらった。 ホテル代高騰でインバウンド向け“二重価格”が急増中…外国人は日本人よりは2~3割高く設定 面談したのはホテル内のバー。オシャレな雰囲気だが、バーに付き物のカウンターがない。 「募集広告には『バー』と書きましたが、実際はカジュアルなラウンジの感覚です」とは面接官の有藤氏(仮名)。 私はバーの給仕は未経験。ラウンジのほうが気が楽だから、内心ホッとした。その私を励ますように有藤氏が仕事内容を説明する。ビールやウイスキー、乾き物のつまみなどを運ぶのが中心で、比較的ラクな仕事だという。 「クラフトビールはビンごと運びますし、ワインは専用のサーバーがあり、ボタンを押せば適量が出てきます。それを運ぶだけです。トレンチに乗せて運ぶのが苦手な人は、ビンやグラスを手に持って動いてもかまいません。おつまみはソーセージなどを温めて出す程度です」 仕事は午後5時から夜11時まで。時給は1380円だ。 バーの利用者の大半が宿泊客で、8割以上が外国人。そのうち半分が欧米人、残りが東南アジアからの来訪者だ。中国人は皆無に近い。ホテルの歴史が浅いせいか、来客は平日で10人前後、週末で30人前後とそれほど多くはない。 心配なのは言葉の問題だ。ほとんど英語をしゃべれないからだ。 「大丈夫です。今はスマホの翻訳機能を使って日本語で質問するお客さまが多いので、英語がダメでも問題ありません」 それでも白人客に何か聞かれたら、どう返答すればいいのかと不安になる。 ■スタッフのほとんどはフィリピン人だった 「実はバーのスタッフに日本人はいないんです。おもにフィリピン人が働いています。みんな英語ペラペラなので、何かあったら代わってもらえばいいんですよ」 なるほど。採用されたら外国人スタッフの中で働くわけだ。ただし60代半ばの男性を採用した実績はないという。 外国人が相手となれば、何かとクレームを受けそうだ。そのあたりを質問すると、有藤氏は「欧米や東南アジアのお客さまは、うるさく言いません」ときっぱり。 外国人客に特別な料理や飲み物をオーダーされ、提供できない場合は「すみません。ご用意できません」と説明。相手はあっさりと納得してくれる。たまに無理をして要望に応えてあげると「ありがとう」と感激される。 欧米人に接するときは堅苦しくせず、自然な笑顔でフレンドリーに対応したほうが喜んでもらえるそうだ。 厄介なのは日本人客だ。 「日本人のお客さまは『なぜ用意できないの?』『ホテルのバーなんだから、なんとかしろよ』と要求してきます。外国人のお客さまのほうが対処しやすいです」 滝川クリステルの「お・も・て・な・し」は、上下関係を振り回して暴走する日本人のためにあるのかもしれない。 私の年齢は60代半ば。面接に呼んでもらったからには採用されるのではないかと期待したが、有藤氏は「弊社は応募された方、全員と面接する方針です。年齢や国籍などで差別はしません」。 つまり老若男女、誰もが面接に呼ばれるわけだ。私に採用の通知は届かなかった。 (つづく) (林山翔平)