「AI人材」はわずか18.7% 学びは進むも成果に届かず 「AI人材白書」発行
日本リスキリングコンソーシアムは、AI活用に関する調査結果を発表した。エンジニア職を除く5,694人を対象にインターネットで実施したもので、個人がAIスキル習得を始めたきっかけは「(AI技術への)個人的な興味」(76.9%)が最多となった。一方で、業務上で具体的成果を上げる「AI人材」は18.7%にとどまり、学習時間や所属組織側の活用支援が課題として浮き彫りとなった。 【この記事に関する別の画像を見る】 本調査は、国や自治体、企業など250以上の団体で構成する日本リスキリングコンソーシアムが実施したもの。同コンソーシアムは'22年6月の発足以来、全国の学び手へデジタルスキル向上機会を提供し、会員数は16万人以上に達する。 今回の調査では、AI人材を「技術者や開発スキルを有するスペシャリストではなく、AI(生成AIを含む)を活用し業務において具体的な成果を上げることができる人材」と定義し、その現状を可視化した。 ■ 個人の学習動機は「興味」、業務成果は伸び悩み AIスキル習得を始めた動機では「AI技術に興味があったから」(76.9%)がトップで、「業務の効率化が必要」(67.7%)が続く。学習者の関心は高いが、実務での活用となると差が生じる。「具体的な業務成果を上げられる」は18.7%で、「ある程度成果は出るが改善の余地」(39.3%)、「さらなる学習・サポートが必要」(34.5%)が7割超を占めた。学習意欲こそ高いものの、業務に成果として結びつけるには時間や環境整備が不足していることを指摘した。 ■ 学習時間と組織環境が成果を左右 「業務に具体的成果を上げる」AI人材は、「31時間以上」の学習時間を確保している割合が42.8%と最も多い。一方、「改善の余地」や「さらなる学習が必要」と回答する層は学習時間が20時間未満に偏る。学習継続を阻む要因として「学習時間の確保」(52.1%)、「モチベーション維持」(38.9%)が挙がる。所属企業・組織に期待する支援として「学習費用負担」(59.8%)、「学習時間確保」(53.6%)、「実務でAI活用機会の提供」(40.7%)が上位となった。 ■ 業務活用で格差、環境整備が鍵 12月9日に開催されたシンポジウム「AIで広がる未来:誰もがAI活用による利益を享受する社会を実現するには」内で行なわれたパネルディスカッションでは、「日本における生成AI活用の現状と課題」や「適切な生成AI活用を進めるための施策」が議論された。登壇者は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授の石戸奈々子氏、日本マイクロソフト 政策渉外ディレクターの井田充彦氏、地方自治体向け生成AI「QommonsAI(コモンズAI)」を開発・提供するPolimillのエバンジェリスト Julian Brody氏、東京大学大学院情報学環 准教授の澁谷遊野氏。 Julian氏は、自治体間のAI活用能力に差が生じると施策や住民サービスの質にも影響すると述べ、データ整備や学習支援の必要性を訴えた。また、日本マイクロソフトの井田氏は、日本では生成AIを使ったことがある人が9%にとどまる背景として「使い方がわからない」(42%)や「必要性が感じられない」(40%)点を挙げ、具体的な利用シナリオの提供が普及の鍵だと指摘した。 石戸氏は「AI導入においては、過剰な安心・安全を求めると新たな可能性を失う」とし、実際に使ってみる環境の重要性を述べた。澁谷氏も「市民や社員が気軽にAIを試し、失敗から学べる環境が格差をなくす鍵」とし、マルチステークホルダーの連携が成果につながると強調した。 同コンソーシアムでは、継続的なAI人材育成には3つの要素「個人の意欲」「企業・組織の環境整備(ハード面)」「成果につなげる仕組み(ソフト面)」が不可欠であると考え、それらの要素で構成された人材育成モデル「AI人材育成サイクル」を提言。その提言をまとめた「AI人材育成白書」を無料公開している。
Impress Watch,佐々木 翼