「ゴミのように扱われた」異例の敗走、ロシア兵が抱く不信感 データが示すプーチン氏の思惑とは #ウクライナ侵攻1年
このうち「軍事」のテーマに着目すると、2022年の9月より前と以降で大きな変化が見られた。 9月より前は「ウクライナ」「NATO」「安全」という言葉が目立ったのに対し、それ以降は「国民」「歴史」「歴史的な」といった、一見、軍事のテーマらしくない単語が目立つ。
こうしたデータをロシア政治が専門の静岡県立大学の浜由樹子准教授に見てもらった。浜さんは、プーチン大統領がこの時期から軍事侵攻の「長期化」を意識するようになったのではないかと考察する。 「9月より前はウクライナと戦うとか、NATO(北大西洋条約機構)と戦うとか、具体的な言葉で構成されています。一方、9月以降は歴史や文化、『われわれ国民』といった、比較的抽象度の高い言葉が入り始めていて、国民に対してのメッセージに力を入れてきているという印象を受けます。軍事侵攻の長期化を視野に入れて、対外的な発信よりも、国民、特に自分たちの支持層が離れていかないようにエネルギーを割いて話しているという印象を受けます」
「ナチス」にまつわる言葉の使い方にも注目すべき変化が見られた。 軍事侵攻開始直後、プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」などと一方的に非難し、ウクライナの「非軍事化」「非ナチ化」を軍事侵攻の目標に掲げていた。ところが2022年9月、戦況が膠着(こうちゃく)して以降、プーチン大統領が発する「ナチス」「ナチズム」は、独ソ戦での勝利の記憶を呼び起こし兵士や国民たちを鼓舞する文脈での使用が目立つようになった。
外国からたびたび侵略を受けたロシアの歴史において、約80年前、ナチス・ドイツ軍と戦った独ソ戦は「大祖国戦争」と呼ばれ、特別な意味を持つ。国家存亡の危機から必死の反撃で勝利した歴史は、“先人が命がけで守った祖国”という国民意識のよりどころとなってきた。 「長期戦になっていくという覚悟をするなかで、第2次世界大戦の記憶、独ソ戦の記憶に今回の戦いをオーバーラップさせて、自分たちの文化や価値観を守る戦いという位置づけに少しずつ変えてきているのではないでしょうか。あのとき一丸となってナチズムを退けたのだから、今回も同じような犠牲が出るかもしれないけれど、頑張りましょうと国民に呼びかけていると感じます」 浜さんは、こう述べたうえで、「ナチズム」という言葉は「西側から来る脅威すべてに対して実は適用可能」であると指摘する。 「今後もこうした第2次世界大戦、独ソ戦に関する言葉を使っていくと思います。というか、『これしかない』。国民を統合できるような、そういうイデオロギー的ツールが他にないのです」