ヘビー級のバーベルを「上げる」力持ち、その「力の大きさ」はどう表す?…バーベルの「キログラム」ではありません
“見苦しい”単位を避けるには
m=1kg、a=1m/s²を代入すると1×1=1なので、式2になります。式2力 F=(1kg)(1m/s²)=1(kg)(m/s²)→単位つきの力 式2は、質量1kgの物体を1m/s²の加速度で加速するために必要な力(F)が1(kg)(m/s²)であることに加え、「力の単位」が(kg)(m/s²)であることも示しています。 しかし、(kg)(m/s²)は複雑すぎ、いかにも“見苦しい”単位と言わざるをえません。そこで力の単位は、「Newton」の頭文字を取って「N」で表すことにしました。 1(kg)(m/s²)を1N(ニュートン)とするのです。
ニュートンの第二法則
ここであらためて、式1を見てみましょう。式1は、「ニュートンの第二法則」とよばれています。式1F=ma 左辺のFは力を表しているので、右辺のmaも力を表していなければなりません。これが、数式における「左辺=右辺」という意味です。 式1において、もし物体になんの力もはたらいていなかったとしたら、左辺はF=0となるので、右辺のmaもゼロにならなければなりません。物体の質量mはゼロではないので、右辺がゼロになるためには加速度aがゼロになる必要があります。 物体になんの力も加わらないかぎり(F=0であるかぎり)、物体の加速度はゼロで、すなわちこの物体は加速されないことになります。 一方、左辺の力Fがゼロでなかったら右辺maもゼロではなくなるので、加速度aもゼロではなくなります。このことは、先に述べた「加速の原因は力である」に一致しています。 ニュートンの第二法則(式1)は、質量m(kg)の物体に力F(N)が連続的に加わりつづけないと成り立ちません。さもなければ、F=0となって加速されなくなるからです。 繰り返しますが、「力」の単位は「N(ニュートン)」で、質量の単位は「kg」です。
その物理量に「向き」はあるか?
ここで、「ベクトル」というものを紹介しておきましょう。 数値で表される「量」に加えて、「方向」も備わっている物理量を「ベクトル」とよびます。たとえば、物体の速度を正確に示すには、「~m/s」という「量」だけではなく、どちらの「方向」に動いているのかを明示する必要があります。したがって、速度はベクトルです。 力もまた、その強さを「~N」と数値で示しただけでは不十分です。 もしみなさんが、「ある物体に30Nの力を加えよ」といわれたら、すかさず「どっちの方向に?」と問い返さなければいけません。たとえば物体を「押す」ことによって力を与える場合なら、右に押すのか左に押すのか斜めに押すのか、あるいは向こう側に押すのか手前に向かって押す(引く)のか、力を加える「方向」を指定する必要があるからです。 どんな力も「向き(方向)」をもっているので、力もまたベクトルです。 他方、「質量」はベクトルではありません。たとえば、ある物体の質量が8kgである場合に、「どっちの方向に8kg? 上向き? それとも右向き?」などと問うことは無意味です。質量は「方向」などもっていないからです。 質量には「向き」はなく、単に「量」を表すだけです。 リンゴの数や温度も同様で、5個のリンゴを前にして「どっちの方向に5個?」と聞いたり、25度を示している温度計を見て「25度の向きは?」と訊(たず)ねるのはまったくのナンセンスです。質量やリンゴの数、温度はベクトルではないからです。 その物理量に「向き」はあるか?――なんらかの数値を扱うとき、それがベクトルであるか否かを意識するようにしてください。 重力のからくり――相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか 自然界を支配する4つの力の中で、最も身近で最弱の力。 この宇宙に現在の構造をもたらした最大の貢献者でありながら、なぜか「標準模型」に含まれない異端児=「重力」。 素朴な問いから「物理学最大の難問」まで一気読みさせる好著!好評のからくりシリーズ その他の既刊光と電気のからくり詳しい内容はこちら量子力学のからくり詳しい内容はこちら真空のからくり詳しい内容はこちら時空のからくり詳しい内容はこちらE=mc²のからくり詳しい内容はこちら
山田 克哉