「クック」の意味は「靴」じゃない!?子どものことばの発達にはヒミツがあります~言語聴覚士・奈々先生が専門家に聞いた
大阪大学大学院人間科学研究科の萩原広道先生にお話を聞きました
萩原広道先生 大阪大学大学院人間科学研究科助教。博士(人間・環境学)、作業療法士、 公認心理師 「ことばの発達には、まだまだ謎が多いんです。子どもたちがことばを学び、使いこなせるようになる過程は何度見ても不思議です。ことばの発達研究は、子どもの心・ことばの不思議な世界をのぞく探検のようなものだと思っています」 萩原広道先生は、もともとは臨床畑の出身。子どもの発達を知るにつれ、特に、ことばがどのように習得されていくのか、その過程を探ることは子どもの発達を理解する上でとても重要だと感じて、基礎的な研究をを目指すようになられたそうです。 萩原先生の研究は、子どものことばの発達という身近な現象に、新たな光を当てるものです。そのお話は、まるで子どものことばの世界を探検するツアーを先導してくれるガイドのようです。子どものことばに耳や目を傾け、伝えようとしていることを知ろうとこちらも歩み寄ること。それが、ことばの発達の不思議に迫る第一歩なのかもしれません。
子どもの言う「クック」は「靴」という意味だけではない!
–子どものことばの発達についての研究でどのようなことがわかったのですか? 子どもは1語文(単語でのお喋り)から2語文(ことばを2つ繋げたお喋り)へと、ことばを習得していきます。でも、それは単純な積み重ねではないんです。 例えば、1語文を話している時期に、「靴」という単語の理解の仕方が変化していくことがわかりました。最初は「靴」ということばを、「靴を履く」という行為<履く>も含めた意味で理解しているんです。それが徐々に、「靴」という物とその行為とに分かれていく。子どもなりのことばへの意味づけが、大人の理解に近づいていく過程が見えてきました。
「クックはどっち?」クイズをやってみた
子どもが「靴」という単語をどのように理解しているかを調べるために実施したのはこんな調査です。 まず、子どもに2つの動画を左右にならべて見せます。一方は「靴を履かずに何か別のことをしている」場面(靴を胸の前でこすり合わせる)、もう一方は「小さなカゴをあたかも靴であるかのように履いている」場面です。そして、「靴はどっち?」と聞きます。 すると、2歳前の子どもたちは、靴が変な使い方をされていても正しく「靴」がある方を選ぶことができました。ところが、1歳6か月の子どもたちは迷ってしまい、どちらを選ぶかがランダムで当てずっぽうになってしまったのです。 でも、だからといってこの時期の子どもたちが「靴」を理解していないわけではありません。同じように2つの動画を左右に並べて、一方は「靴を履いている」場面、もう一方は「カゴを胸の前でこすり合わせている」場面にして、「靴はどっち?」と尋ねると、1歳6ヶ月の子どもたちでも、「靴を履いている」方を選ぶことができたからです。 このことから、1歳6か月頃の子どもは、「靴」の意味に<履く>という行為の意味まで含めており、使い方が本来の靴と一致しない場合、「靴」だと理解できないことがわかったのです。子どものことばの理解が、このような発達過程をたどっていることが明らかになりました。