豪州代表DFが感嘆…母国なら「まったくいない」 来日後に実感、“日本サッカー”強さの根源【インタビュー】
日本サッカーが発展を続ける理由は“草の根”にあり?
J1アルビレックス新潟の守備を高い身体能力とスピードで支え、洗練された足もとの技術を生かし後方からの組み立てにも貢献するオーストラリア代表DFトーマス・デン。日本でのプレーは今年で5年目を数える。その間に日本のサッカーをどう見てきたのか? 第二の人生の青写真とともに、受けた感銘を明かしてくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の2回目) 【動画】見てる側もヒヤヒヤ 新潟が自陣ゴール前で披露した圧巻パスワーク ◇ ◇ ◇ 1997年にケニアの難民キャンプで生まれ、幼少期に家族と移住したオーストラリアで本格的にサッカーを始めたデン。Aリーグのメルボルン・ビクトリーでプロ契約を結び頭角を現すと、2020年には浦和レッズに移籍して活躍の場を日本に移した。そして、22年に新潟へ加入。日本でのプレーはすでに5年に及ぶ。 アジアでしのぎを削るライバルのプロリーグ参戦へ、決断の背景にあったのはビクトリー在籍中にAFCチャンピオンズリーグでJリーグ勢から受けた刺激だった。川崎フロンターレやサンフレッチェ広島との対戦を通じ、日本人選手が持つ足もとの技術に舌を巻いたと同時に「俊敏性や力強さも感じた」と語る。 それゆえに、「日本で若い逸材が次々と現れ、欧州の5大リーグへ移籍する状況」にも納得を示すデン。日本サッカー界の現状について「壊れていない物を直すな」と英語の諺(ことわざ)で表現し、ライバルの目から見ても然るべき方向に進んでいると強調する。 そんなアジアのサッカー大国となった日本の強さの秘訣は――。デンが着目し、インスピレーションを受けたのは少年少女だった。“草の根”レベルのサッカーに抱いた印象をこう語る。 「子どもたちのトレーニングメニューがとても洗練され、考え抜かれたものになっています。だから思いました、これが理由で日本の選手たちはボール扱いが上手いのだと。子どもの頃から工夫が施された練習を続けているために、今の日本代表選手たちが育ってきたのだと理解できます」 また、驚きは練習内容だけにあらず。日本人の国民性とも考えられる子どもたちの姿勢も、母国の状況とは大きく異なっていたという。 「日本に来て特に驚いたのが、全体のトレーニングが終わってからもシュートやパスの自主練習に励む子どもが実に多いこと。オーストラリアなら、数人もしくはまったくいないかのどちらかです。物事に対し自分なりに考え取り組む姿勢には感銘を受けています」 こうした驚きや感銘を受けた影響もあってか、現役引退後は「(オーストラリアの)現役選手に対してというよりも、子どもたちの力になりたい」とプランを思い描く。 プロデビュー直後の2016-17シーズン、デンはオランダの名門PSVアイントホーフェンのリザーブチーム、ヨングPSVで期限付き移籍を経験し、そこで同国が誇る伝説的ストライカーのルート・ファン・ニステルローイ氏から指導を受けた。選手として多様な経験を培ってきたからこそ、「日本だけではなく、ここまでプレーしたすべての国での得たものを母国に還元できればという思い」で豪サッカー界への貢献を夢見る。 日本での知見はこれからもどんどんと蓄積されていくはず。日豪ライバル関係の維持・発展へ、デンが将来果たす貢献にも期待が高まる。 [プロフィール] トーマス・デン/1997年3月20日生まれ、ケニア出身。6歳で家族とともに移住した豪州でサッカーを本格的に始め、2015年に18歳でAリーグのメルボルン・ビクトリーとプロ契約を結ぶ。ヨングPSV(オランダ)での期限付きを経て、母国では4季プレー。20年に浦和レッズへ移籍し、活躍の場を日本に移す。22年からアルビレックス新潟の一員となった。豪州代表としても活躍し、2021年の東京五輪で3試合プレーしたほか、22年カタール・ワールドカップのメンバーにも選出されている。
FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi