「金星」の火山が1990年代に噴火した新たな証拠を発見! 確認されれば太陽系3例目の天体に
現役で噴火を起こしている「活火山」は、太陽系全体で見てみると非常に珍しい存在であり、地球以外では木星の衛星の「イオ」でしか見つかっていません。特に、 “兄弟星” と呼ばれるほど地球と似ている「金星」では、直近の噴火に関する予備的な証拠が挙がってはいたものの、決定的なものではありませんでした。 金星探査機「マゼラン」の観測データをもとに作成された金星の全球画像 ダンヌンツィオ大学のDavide Sulcanese氏とGiuseppe Mitri氏、そしてローマ・ラ・サピエンツァ大学のMarco Mastrogiuseppe氏の研究チームは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が30年以上前に運用していた金星探査機「マゼラン」のレーダー画像を分析し、噴火で生じた溶岩流の証拠を探索しました。その結果、1990年から1992年にかけて流出した溶岩流である可能性が高い地形の変化を2つのエリアで発見しました。 今回の研究は直前に発表された別の研究とあわせて、金星の火山が直近でも活発に活動しており、それも1990年代という人間のタイムスケールでもつい最近に噴火した可能性が高いことを示しています。この結果が正しければ、金星は現役の熱い活火山を持つ3例目の天体となります。
■太陽系の「活火山」は実は珍しい
地下から地上へと高温のマグマを噴出する「火山」は、私たちにとっては身近な存在です。火山は地球以外の多数の天体でも見つかっており、例えば地球と同じく岩石が主体の天体である「金星」や「火星」、あるいは「水星」や「月」でも、火山のような地形や溶岩流の痕跡が見つかっています。 しかし、現役で噴火をしている「活火山」に限ると、そのような例は非常に珍しくなります(※1)。特に、高温で融けた岩石を噴出する “熱い火山” に限って見ると、活火山は地球を除けば木星の衛星「イオ」にしか発見されていません(※2)。他の天体で活火山が見つかっていないのは、天体の体積が小さすぎることや、潮汐力や水の不存在などの複合的な理由が合わさり、融けた岩石が現在まで維持されなかったためであると考えられています。 地球との類似性から “兄弟星” とも称される金星も、これまで活火山が見つかっていない天体の1つでした。火山と見られる山そのものは8万5000を超える数が見つかっていますが(※3)、つい最近まで、いずれも数億年以上も前に活動を停止していると見られていました。 地球よりやや小さいだけの金星でこれほど火山活動が乏しい理由はよくわかっていませんが、最大の理由は水が存在しないことではないかと考えられています。高温の水には岩石の主成分であるケイ酸塩の強力な化学結合を切断し、融点を下げて融けやすくする作用があります。マグマは水が無くても生成されるものの、水がある場合と比べて高温が必要となるため、マグマの生成や噴火活動がより難しくなります。これに加えて、金星には分厚い地殻が存在していてプレートテクトニクスは欠如していることから、表面の火山活動だけでなく内部活動もそこまで激しくないという観測結果が得られています(※4)。 これまでの研究では、金星における最も新しい噴火は約250万年前が最後だと考えられていました。これは惑星科学的には “現役” と言って差し支えないほど最近であるものの、それでも人間のタイムスケールで直近と言える噴火の証拠は見つかっていませんでした。火星では約5万3000年前に火山が噴火したらしいという観測証拠があり、それと比べればまだ古い時代となります。 一方で、大気に含まれる微量成分の分析結果から、さらに新しい時代にも火山活動があったことを示唆する研究がありました。また2023年には、レーダー画像の比較によって、1991年中の数か月の間に火口の形が変化した火山があるという研究結果が発表されました。これが正しい場合、金星では1991年に噴火が起きた可能性があることになりますが、決定的ではありませんでした。